「掃除機」といえば、ほとんどの家庭で使うものですし、吸い込み力や排気の清潔さなど、求められる機能も年齢や性別に関わらずほぼ共通しています。デザインなどにもあまりこだわりはないでしょう。こういう商品なら女性向けのファッション物とはちがって、それほど媒体やリストを気にしなくてすみそうです。そこで、新聞の「折込みチラシ」で売るとします。
あなたはコピーを任されたライターです。まず、ターゲットたちの「顔」を思い浮かべてみましょう。男性も女性もいますけど、折込みチラシだから主婦が多いでしょうか。子育て中? マンション住まい?…いや、独身のOLさんもけっこういるのでは? いやいや、最近は若い人が新聞を読まないというし、案外、チラシもお年寄りのほうがじっくりと見てくれるのかもしれない…
こうなってくると、やはりコピーを書く立場としては、折込みチラシを見る可能性のある「みんな」に共通する商品メリットを訴えたくなりますよね。先ほどの「煩わしいコードが無いから〜」のフレーズですね。でも、冒頭にも触れた通り、似たような商品がすでにあるとすれば、ライバルの考えることもだいたい一緒です。類似商品の数だけ類似広告が増えるばかりで、結局は、そうした最大公約数的な表現は誰の目にも留まらず埋没していきます。
そこで、もう少し対象を絞り込めたら…と考えてみます。年齢層で分けるだけでも、子育て世代の主婦に「お子さんを抱っこしながら片手でも掃除ができましたよ!」とか、老夫婦世帯には「本機をメインにすれば、もう、大きくて重い掃除機をゴロゴロ引きずって歩かなくてもすみますよ!」と、それぞれの生活環境に沿った商品メリットを伝えることができそうです。写真もそれぞれのシーンに合わせたカットに差し替えれば、より相手の心に刺さるかたちで、「子育て主婦用」と「シルバー世代用」の2つの原稿が作れます。
「商品×ターゲット顧客」の組み合わせを考えることは、すべての広告計画の基本中の基本です。これによってプロモーションの規模やコンセプト、費用対効果が決まるわけなので、各社(広告会社も含めて)ともリサーチをして精度よく運用しています。ただ、その発想は主に、広告費や郵送料といった経費のムダが出ないように全体の「効率」をよくするためのものであり、クリエイティブの作り分けによる「効用」については、あまり考慮されてこなかったと思います。しかし、商品の特長による差異化が難しくなってきた今日では、この「表現の個別化」が顧客対象を選ぶ上で大事な要素になってきます。