鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
米国のオンライン動画広告の波は日本にも到来する?
デジタルマーケティング界隈のバズワードのなかには、「今年はこれが流行る」などと予言的な言説も少なくないですが、ビデオアド、オンライン動画広告ほど「来るぞ」という前評判のみが先行している言葉もないでしょう。この流れは主に米国でのデジタルマーケティングでの動向が影響しているわけですが、冷静に考えると米国の事情をそのままコピペするにはいくつかの条件が異なることに留意すべきでしょう。
まず米国ではネットワーク放送(日本で言う地上波TV)がすでに放送の中心的役割を担っておらず、ケーブルテレビや衛星放送を含む多チャンネル化が進んでいるという状況があるので、動画視聴の選択肢やバリエーションはすでに多岐に渡っています。同時にオンラインによるオンデマンドの動画視聴サービス(ペイパービューのみならず定額見放題のSVODも含め)はネットフリックスやフールー、最近はiTunesやアマゾンなども含め複数展開しており、すでにデスクトップに限らずタブレットやスマートデバイスをまたがった動画視聴環境が整いつつあることが背景としてあります。
これはまず動画広告が主流になるというより、消費者のタッチポイントの多様化から考えれば、ネットワーク放送のテレビスクリーンに限った広告に頼っていては不十分であるということです。
デジタルにおける動画広告の役割
加えて米国のカスタマージャーニーの7割はすでにデジタルメディアでのタッチポイントとも言われているので、ネットメディアでのマーケティングにおける動画広告を考えることが重要です。動画はデジタルの「リッチメディア」のひとつであるので、ダイレクトレスポンスを目的とした購買喚起やクリック誘導よりも、パーチェスファネルの上部に位置するブランド認知や態度変容に効果を発揮します。その意味で動画広告の拡大は、いままでテレビのようなマスメディアの主な役割をデジタルマーケティングが担いはじめた段階でもあるということです。
このような背景から、米国のネットメディアは動画広告配信フォーマット導入に対しては積極的です。何しろディスプレイ広告よりも単価は上げることが出来て、しかもダイレクトレスポンスでの販促予算だけでなく、ブランド認知に貢献する広告予算もデジタルで獲得できるわけですから、こんなに良い話はありません。
動画広告はテレビの予算を奪うもの?
実際米国では動画広告市場が今後伸びると予想されていますが、その源泉はテレビ広告予算と明言されています。テレビ番組を含む動画に接触する時間全体は今後増えないとすれば、それがテレビ放送からスマートフォンやタブレットにシェアが移り替わってもおかしくないということでしょう。それにクロームキャストやアップルTV、アマゾン キンドルファイアなどのデジタル接続ツールによって、テレビスクリーンそのものをデジタルで乗っ取ってしまうかもしれないと考えれば、そのデジタルスペースでの広告としてオンライン動画広告がメインとなるかもしれません。
日本のオンライン動画広告の夜明け
ただこの流れが日本の広告市場にも来るかどうかは、背景も含めまだ不透明です。日本の特長はユーチューブやニコニコ動画などの視聴がメインで、日本は世界の中でもオンライン動画に対して有料で視聴する習慣や志向性が非常に低いことで有名です。(それだけ地上波が無料で優良のコンテンツを流しているということかもしれませんが)これはブランド側で考えると、テレビに替わるようなプレミアムなデジタル広告スペースがまだまだ育つ環境にないことを物語っているとも言えます。
ただし、既に米国と同様に日本でもオンライン動画広告が、マーケティングミックス上非常に重要な役割を果たし始めていることはすでに多くの調査で報告されています。単なるテレビの置き換えではない新しい形のオンラインマーケティングとしてその方法をブランドごとに試行錯誤していくことが期待されます。
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