宮田識さん作品紹介
宮田:代表作を3点、ということで持ってきたのですが、色っぽくないなぁ(笑)。もうちょっと色っぽさを出せたほうがよかったのかなと思っています。「広告ロックンローラーズ」での箭内さんとの対談で、箭内さんから投げかけられた最初の質問は「宮田さんは、『勇気』ってどう考えていますか?」でしたね。それで言うと、勇気のない仕事だなぁと感じています。「もっと羽ばたけよ」と……。過去から現在にかけて、3点の作品をお見せしましたが、あんまり変わらないなぁと思うと同時に、もっと勇気を出して仕事をしていかなければいけないなと思います。
箭内:ここまで、少しずつお話を聞いただけでも、皆さん、「まだうまくなりたい」「まだすごいものを作りたい」「まだ色っぽくなりたい」とおっしゃっている。それは当たり前のことのようで、やはり驚くべきことでもあると思うんですよね。若いクリエイターにしてみれば、自分たちの前を30~40年走ってきた方々がまだ頂点を極めようとしているのでは、自分たちがデビューする場所がないんじゃないかと心配になるくらい、いまも「もっともっと、いいものを」と追い続けているんですよね。
だから、昔のCMを見て「すごかったね」「懐かしいね」「あの頃はいい時代だったね」という話をするのではなく、これからのヒントとか、明日から僕たち、若い人たちがやるべきことというのが、ここまでで見てきた作品や、話の中にも、ぎっしり詰まっていると思っていて。それを見つけることができるか、「あの人たちはすごい人たちだから自分とは別だ」「自分にはキユーピーの仕事もソフトバンクの仕事も来ないよ」と遮断してしまうかで、大きな差があると思うんです。単純に、広告の作り方だけではなくて、さまざまな人のさまざまな考えがある中での「生き方」のヒントが、見つかったらいいなと思います。
皆さんには事前に、「広告って何ですか?」という統一の質問を投げかけさせていただきました。ここからは、お一人ずつに、その答えを伺っていきたいと思います。同じことを言う人がいるかもしれない。同じことを言っていても、その裏にある意味が違っているかもしれない。違う話のようで、実はどこかでつながる部分があるかもしれない。以前、天野祐吉さんか佐々木宏さんも冗談で言っていたのですが、このパネルディスカッションのタイトルにある「G8」は、先進国首脳会議の「G」と、年配の方を呼ぶときの「爺」をかけているんです。「G8」って、最後に必ず共同声明みたいなものが出るじゃないですか。大げさなことじゃなくていいのですが、来場者の方を含め、ここに集まったみんなで、「明日から広告をこんなふうに作っていきたいね」という共通の思いを、持ち帰れたらなと思っています。
それではまず、秋山さんから伺えますでしょうか。
秋山:あまり立派なことは考えていないですね。広告というのは私たちにとって、日常です。日常の中の表現、それが広告です。しかし、それではあまりにも、ここにいる作り手側の感覚に寄りすぎてしまいますね。今回、「広告とは何か」と聞かれて、ふと思ったことが2つあります。ひとつは「名作」と言われる過去のキャッチフレーズに、広告の本質があるんじゃないかということ。例えば、「愛だろ、愛っ。」(サントリー カクテルバー)。「広告は愛だろ、愛っ。」と言うこともできると思う。さらにもっと経済性のことを言うなら、「おいしい生活。」(西武百貨店)とか。「広告は美味しい生活。」——まあ、これはあまりにも理想的な考えですよね。すでにある表現を使って言おうとすると、やはりバッシングされなくちゃならないので、これはここだけの話にしましょう。昔、博報堂の宮崎晋さんの仕事だったと思うのですが、どの新聞だったか、とある日の広告枠をすべてホワイトスペースにするという企画がありました。そのスペースのセンターに、昔の写植でいう16級くらいの小さな文字で、スポンサー名だけが掲載されていた。それを見たときに、「ああ、広告というのはノイズなんだな」と思いました。そして、ノイズがないということが、いかに寂しいものであるかを知りました。実生活の中でも、無響室のように全く音のない世界に行ってみると、人間は宇宙空間にいるかのような寂しさをおぼえるものです。広告はノイズで、それがあるから人間が生きていられるのだと感じます。もう一つは、「広告」=「私たちが作っているもの」とは何だろうと考えてみると、そこから連想されたのは「音波」とか「電波」といった「波」、それから「空間」なんですよね。そうした要素をベースにして、日本語で一言で言い換えるとすれば、広告は「振動」。ウェーブではなく、バイブレーションでもない、「振動」。今日時点では、僕はそう思います。
箭内:僕が講師を務めた宣伝会議の講座で、受講生が教えてくれたのですが、ファッション誌から広告を抜いたら、雑誌の値段は何十倍にも跳ね上がるそうです。秋山さんの「振動」のお話を聞いて、広告は、情報・エンターテインメントを多くの人の元に届けるためにバックアップしてくれる存在とも言えるかもしれないなと思いました。次は大島さん、お願いします。
大島:広告って、「いま必要とされているもの」だと思っているんです。それは、作り手である僕にとっても、いつも「いま」しかないということ。それは、すごく怖いことです。「いま」その商品や企業を売るということ、“Just Now”を常に相手にするのが広告ですが、「そこに私が必要とされているかどうか」をいつも問われている。広告作りというのは、そういう作業なんですね。「いま」しかないのに、なんでずっとここにいられるんだろう?と不思議に思いながらやっています。
箭内:細谷さんには怒られるだろうなと思いながら、この「広告って何ですか?」という質問を作りました。「そんなの言いたくないよ」とか、「こんなところに連れてきて、みんなにそんなことを話させるんじゃないよ」と言われても仕方がないくらい、大変な質問だなと、お二人の回答を聞いて改めて感じています。一人あたり、いくらになるだろう……?(聴講者に向けて)皆さん、ここまででもう元が取れましたよ。ここからは追加料金を取られてもおかしくない時間と考えてください。さて、ハードルを上げたつもりはないんですが(笑)、次、小田桐さんお願いします。
→後編に続く
※本書に収録したインタビュー記事の取材・構成・執筆は河尻亨一さん、撮影は広川智基さんが手がけました。
『広告ロックンローラーズ 箭内道彦と輝きを更新し続ける14人のクリエイター』
日本の広告クリエイティブを牽引してきた重鎮の方々を招き、内に秘められた広告への熱い思いや、年を重ねてもなお広告界の未来を見据え続けるクリエイティブマインドについて聞いてきた連載企画「広告ロックンローラーズ」。広告クリエイティブが長年にわたって世の中に与えてきたものとは?時代が変わっても変わらないクリエイターの役割、その本質とは?これからの時代を担う、広告クリエイターに伝えたいことは?広告界を目指す若き才能に、また広告クリエイティブを愛するすべての人々に贈る1冊です。
※本書に収録したインタビュー記事の取材・構成・執筆は河尻亨一さん、撮影は広川智基さんが手がけました。