【前回のコラム「いま広告に平賀源内の発想が求められている」はこちら】
永続する価値ってなんだろう
須田:僕がこの連載の最初の「現代の平賀源内」としてクリエイティブディレクターの小西利行さんに声を掛けたのは、広告の効果が10年やそれ以上にわたって続くようなコピーや企画を考えようとしているから。まさに、平賀源内が「土用の丑の日」を考え、それが今も生き続けているようなことに小西さんは挑戦しているんだと思う。長い間、人を惹きつけるものを生み出すためには、広告のテクニック論というよりも、「自分がこういう世の中を見たい」だったり、「この会社はこうなったらいいんじゃないかなあ」という自分の中から湧き出るような好奇心が必要なんじゃないかな。
小西:いま須田さんに言われて気づいたんですけど、僕は企業や商品・サービスの中に「この価値は腐らないだろう」とか「この価値は今後もアップしていくんじゃないか」ということを探していることが多い。例えば、もう10年ぐらい前になるけど、イオンレイクタウンのオープニングの仕事で最初にクライアントからオリエンされたコンセプトが「日本最大のショッピングセンター」だった。それを聞いて思ったのが、半年後に外敵が現れ、もっと大きなショッピングセンターをつくったら、コンセプトが無くなってしまうということ。そこで、考えたのが「日本最大の“エコ”ショッピングセンター」。それならば、今後たとえ日本最大のショッピングセンターが現れても、エコショッピングセンターというコンセプトは残る。当時エコとショッピングセンターを組み合わせた考え方が新しかったということもあって、一気に受け入れられた。もちろん「日本最大」っていうワードは、オープンのタイミングでブーストさせるためのキャッチフレーズとしては機能するけど、本当のコピーはエコショッピングセンターだと思っていた。広告のクリエイターは少し先を読むのは得意だけど、5年先や10年先を読むのは苦手としていることが多い。「永続する価値ってなんだろう」。こういう仕事が、自分は得意なんだと思っている。
須田:例えばシャンプーの広告があったとしたら、「うちの方がA社やB社よりもこれだけ髪が綺麗になります」というコミュニケーションが一般的だと思う。広告の役割はいかにポジショニングの違いをアピールするか。でも、そういう広告は最近効かなくなっている。
小西:15秒や30秒という箱にできるだけ情報をつめる広告が増えているからかもしれない。昔の機内食みたいに、食べ物の量としては満足できるんだけど、うれしくないものが並んでいる感じ。たった一つでも、これは美味しいと思うものがないと記憶には残らない。安っぽい言葉だけど、最近の広告には遊び心がないかもしれない。
須田:サイバーエージェント在籍時に秋元康さんと一緒にお仕事をして、「須田くん、記憶に残る幕の内弁当はないんだよ」って言われたことがある。いまは、幕の内弁当みたいに、タレントもいて、USP(unique selling proposition)も入っていて、音楽も入れていて、とりあえず全部詰めました、「はい15秒です!」という、ばっちりだけが並んでいる広告がたくさんある感じ。