須田:フェイスブックの社員は、毎月250ドル分の広告を無料で出稿できるようになっていて、ある社員は親戚のおじさんのアイスクリームパーラーの集客に使ったり、友人の仕事を手伝ったり、自由に活用できることになっている。シンガポールオフィスに、子供時代は道ばたで捨てられている犬を見つけては拾って自宅に連れ帰っては育て、ある時期は家に9匹の犬がいた、というほど犬好きの女性社員がいた。シンガポールではストリートドッグはすぐに捕まえられ、ボランティア団体がレスキューしないと殺処分になるので、彼女はこの団体を支援したいと思った。社員用の広告費を2カ月分500ドル分ためて募金活動をしたら、わずか48時間で600万円もの寄付が集まった。「Facebook広告は効きます」という話なんですが(笑)、犬が本当に大好きな人間が犬を救いたいという思いでやった支援であり、そうした思いがたくさん集まった活動だから、広告で共感が生まれ感動が提供できて、それだけの金額が集まったんだと思う。
小西:須田さんのFacebookのタイムラインへの「いまアメリカから日本に帰ってきて、これ食べたんだあ」という投稿を見て、「俺も食べたいなあ」と思ったりする。知っている人のリアルな情報は本当に強い。そして、そういう情報に常に触れて面白いと思っている人を広告で動かすのは本当に難しい。辛い時代になったと思う。ソーシャルメディアが出てきたばかりの頃は幻想があって、私がtwitterで発言をして、それが100万人に広げられるのであれば誰もが広告をできるようになる、つまり1億総コピーライターだよねということが言われた。ただ、いま分かったのは逆に、本当に情報を届けるのが難しくなったということ。広告の情報はナチュラルじゃないから、普段ソーシャル上でリアル情報に触れている人はなかなか動かせなくなった。この時代に広告としてコミュニケーションを成立させることができる人は逆に、1億人のなかに5人ぐらいしかいないかもしれない。そして、その人たちは「広告屋」ではないことが多い。広告という考え方がテレビCMやグラフィックという狭義なものから、ものすごく広義になった。秋元康さんがAKB48を生み出したように、世の中を動かすことをやっている人は全て、広告をやっていると言える時代なんだと思う。
須田:「CDを30枚買って、会社で配りました」ということを、みんな嬉々として投稿しているもんね。「クーポン大復活祭」みたいに、広告キャンペーンでもみんながちゃんと反応してくれることはできる。
小西:本当に強い言葉であれば、コピー1つで届くこともあるけど、なかなか難しい時代。僕がよく考えるのは、その広告が居酒屋で話題になるかということ。酒を飲んでるときに、あんまり真面目な話はしないでしょ。昔はスポーツや芸能ネタと同じように広告も話題になってた。古い話だけど、ジレットの髭剃りの広告でバースが「明日の俺を見てくれ」といって翌日髭を剃っていたり、宮沢りえちゃんの写真集が話題になったのも新聞広告がきっかけだからね。