ここでは、『販促会議』2014年11月号に掲載された連載「販促NOW-モバイル編」の全文を転載します。
「ドーム球場でビールを飲みながらプロ野球を観る」というのは、最高の贅沢だ。しかも、可愛い売り子さんだったら、さらにうれしい。「ドーム球場でビールを買う」という行為を、スマホのiBeacon機能を使って実現した二つの取り組みを紹介したい。どちらも同じ目的なのだが、アプローチの仕方が全く異なるのだ。
京セラドーム大阪ではメディアアクティブとアプリックスIPホールディングスが連携しiBeaconを使ったビール販売に取り組んだ。バックネット裏のシートに約10m間隔で67個のiBeaconの発信器を設置。観客はその場でアプリを立ち上げ、自分が座っているシート番号を入力する。すると、近くに居るビールの売り子さんの情報が分かり、スマホからその人にビールを発注できるという仕組みだ。売り子さんもiPhoneを持っており、シートに設置されたiBeaconで現在地が測位されているため、観客と売り子さんの位置情報がリアルタイムで分かる仕組みだ。
一方、ヤフオクドームでは福岡ソフトバンクホークスが、iBeaconによるビール販売を実施した。こちらは、ビールの売り子さんにiBeacon端末を携帯させた。観客がアプリを立ち上げると、数十m付近にいるビールの売り子さんが持つiBeacon端末の電波を受信。ビールの売り子さんからメッセージが自動的に届く仕組みとなっている。写真入りのメッセージであるため、ついつい頼みたくなってくる。オーダーはスマホからは行えず、観客は周りを見渡し、売り子さんに声をかけて購入する流れとなる。同じ「売り子さんからビールを買う」という目的なのだが、iBeacon発信器の設置場所が違うというのが興味深い。
京セラドーム大阪の場合は、建物にiBeacon発信器を設置するという一般的な方法といえる。固定されたiBeacon発信器からの電波で、スマホが自分の位置を知るというパターンだ。一方、ヤフオクドームでは、売り子さん側にiBeaconを持たせ、自分の位置を周りのスマホに教えるというやり方だ。開発担当者は「あえて動いているものにiBeaconを持たせたらどうなるかを試したかった」という。確かに観客と売り子という関係ではスマホを持つ観客はシートに座っているので場所は固定されている。スマホが動かないのであれば、動く側がiBeacon発信器を持つという逆の関係性を成り立たせているのだ。
どちらの球場も、今回が初めての取り組みであり、まだまだ実験的な要素が強い。決済も現金のみといままでと変わらない。しかし、観客がスマホを持ったことで、将来的には決済も現金以外のアプリ経由や電子マネーも採用できるようになるだろう。さらに、ポイント発行や、特定の売り子さんとコミュニケーションがとれるといった展開も期待できる。売り子さんにとっても、売り上げを増やすには「いかに常連客を掴むか」が重要とされている。iBeaconの導入によって、売り子さんにもIT革命が起きようとしているのだ。
石川 温氏(いしかわ・つつむ)
ケータイ・スマートフォンジャーナリスト。1999年に日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。『日経トレンディ』編集記者を経て03年に独立後、ケータイ・スマホ業界を中心に執筆活動を行う。メルマガ『スマホ業界新聞』(ニコニコ動画)を配信中。
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