未来まで残っていく価値は、リアルタイムとの「ずれ」から生まれる
東:「リアルタイム」という言葉が出ましたけど、僕はエンタメとアートの違いはそこだと思っているんです。エンタメはリアルタイムに奉仕する。アートはそこからずれていく。ソーシャルメディアはリアルタイムということが本質だから、リアルタイムに機能する感情の増幅装置だと捉えています。逆に、時間がずれるということを考えられる人がアーティストだと思う。今リアルタイムの波に巻き込まれているものは沢山あって、その最たるものが行政です。ある理念に向かって進めるものだったはずが、リアルタイムに市民の声を聞きはじめて、ちょっとでもクレームがあると中止にしたり、どこに向かっているのか、混乱した状況になっている。先の世に残っていくものを作るには、今この瞬間のあるものをぐるぐる動かすことからは、少しずれていかないといけない。僕は菅野さんの映像にも出てくる「拡張現実」というのは、単一の時間しか持たない「空間」に時間を重ねていくことだと思っています。菅野さんは、「今」にどう時間を入れていくかを考えている。だから「時間の人」なんだと僕は思っていて、そこに興味がありますね。
菅野:すごく面白い。歴史的な豊かさは可視化しないと、どんどん失われると思ってやってきましたが、自分の仕事をそう説明してもらったことはなかったです。
廣田:自分の仕事には常に「今」しかなかったなと痛感してます。「プロモーション」とか「プロデュース」「プロジェクト」といった「pro-」という接頭語がついた言葉を僕たちマーケターはよく使いますけど、いずれも「前へ」という意味合いを持った前のめりな言葉だと聞いたことがあります。自分の普段書いているメールや文章って、ほぼこういう言葉で構成されている。高速PDCAを回し続ける毎日だけでは、本当に人を感動させたり、中長期的に価値を作る仕事はできないですね。今日は反省しっぱなしです。
東:いやいや、廣田くん、ありがとう。今日は非常に面白かったです。菅野さん、また色々な人を交えて話しましょう!
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東浩紀(あずま・ひろき)
1971年生まれ。作家、思想家。ゲンロン代表取締役。『思想地図β』編集長。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社)、『クォンタム・ファミリーズ』(河出文庫)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『一般意志2.0-ルソー、フロイト、グーグル』(講談社)など。最新作は『弱いつながり 検索ワードを探す旅』(幻冬舎)。
菅野薫(すがの・かおる)
1977年生まれ。電通 クリエーティブ・ディレクター / クリエーティブ・テクノロジスト。電通入社後、自然言語処理やデータ解析の研究開発業務を経て、国内および海外の商品サービス開発、広告キャンペーン企画などのクライアント業務に従事。テクノロジーやデータで人の心を動かす新しい表現方法を開拓している。
廣田周作(ひろた・しゅうさく)
1980年生まれ。電通 プラットフォーム・ビジネス局開発部。ソーシャルリスニングの知見に基づき、企業のソーシャルメディアの戦略的活用コンサルティングから、デジタル領域における戦略策定、キャンペーン実施、デジタルプロモーション企画、効果検証を担当。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。