小さな志の集まりが新しい社会を創る
かつて日本には「個」が活躍した時代があり、それが幕末から明治維新の時期で、坂本龍馬をはじめとする幕末の志士たちが大きなエネルギーを放ち、日本を変える原動力となった。
幕末の志士と同年代の今の若者が大志を持って今の日本を変えていくのは難しいが、決して志を持っていないわけではないと森永氏は指摘する。現代の若者が持つ、今の暮らしをより良くしたい、より良い社会にしたいという「たくさんの小さな志が集まって新しい日本を創っていくのではないか」と森永氏は話す。
ソーシャルメディアの浸透は、若者たちの志を表現し、個と個をつなぎ、コミュニティを生み出す環境の土台となっている。こうした状況は、マーケティングにおいても大きな変化を生み出している。
宣伝会議の谷口も「従来のマス広告が海に大きな網を投げて、そこにいる魚を一網打尽に捉えようとするスタイルだったのに対し、『個』の時代のマーケティングには、消費者自らが形成する小さなコミュニティの中から、自社と親和性の高いコミュニティを見つけ、そこに寄り添う様なコミュニケーションが必要とされる。企業はこの小集団にいかにアプローチできるかが求められるようになっている」と話した。
さらにスマートフォンの普及、それに伴うソーシャルメディアの浸透で、「ビジネスが生まれる場面」にも大きな変化が生まれている。以前であればテレビCMで商品を知って店頭で商品を買う、という流れでコミュニケーションの場とビジネスが起きる場が時間的にも物理的にも離れていた。
それが今は自宅でテレビCMを見ていて、気になった商品をその場でスマホで購入したり、店頭で友だちのソーシャル上の投稿に影響され、商品を買うこともある。
谷口は「コミュニケーションの場とビジネスが起きる場が融合している。それを促進しているのが、スマートフォンとソーシャルメディア。いつどこで、購買が起きるかわからない状況だからこそ、企業にとってもスマートフォンやソーシャルメディアといったチャネルの活用が重要になっている」と話した。
つながることで力を発揮 有志マーケティング
森永氏は「『個』の時代には、趣味嗜好を共通項として作られたコミュニティが大きな力を発揮する」とし、さらにそこをターゲットにしたマーケティングを『有志マーケティング』と名付けた。「そのエネルギーの一つひとつは小さくても、それがつながることで大きなパワーを発揮する。そんな可能性が秘められている」。
実際、ADKのカテゴリーチームは社内の有志が集まり、それぞれが日々の業務の中で得意なことや好きなことを軸にできた集団。得意なことや好きなことを続けることで、その分野をより好きになったり、そこで人が育ったりする好循環が生まれたのだという。
「カテゴリーチーム時代が、有志の集まり。そのようなエネルギーを持った社員によるセッションが、来場者の方たちに新たな発見やヒントを提示できれば」と森永氏は話した。
最後に両氏は、「今日のテーマの一つが、“イマジン”。未来を予測すると言っても、つい自分の現在の仕事や立場の中で、その世界を想像してしまうのでは。しかし、産業構造自体がドラスティックに変わっている時代。今日は組織人という立場を忘れて、一人の生活者として、自分は2020年にどんなことを考え、どんな生活をしているだろうか、ということに思いを馳せながら話を聞いてもらえれば」とセッションを締めくくった。