コンプレックスの正体
西井:今回、テーマにするのは「劣等感」「コンプレックス」です。自分なりの働き方を見つけていく上で、実はコンプレックスが鍵になっていたりするのではないかと。
廣田:そもそも広告業界の仕事って、競合プレゼンがあることが象徴ですが、常に競争にさらされていますよね。さらに、クリエーターの世界には「賞」がある。それだけにコンプレックスが生まれやすい業界なのかもしれないと思います。
小島:私が2012年に『広告のやりかたで就活をやってみた』という書籍を書いたのも、コンプレックスがあったからです。すごい活躍している同期がいて、同期の中で一番最初に書籍を刊行して、「うらやましいな」という気持ちが生まれて。でも当時の私は営業にいて、出版社から声がかかるような知名度はなかった。
そこで、企画書を複数の出版社に送ったんですけど、そこで反応していただいた中の1社が宣伝会議さんでした。
廣田:西井さんは、入社2年目で書籍も刊行して、周囲からうらやましがられる方だったのでは。でも、そんな西井さんにもコンプレックスがあるんですよね。
西井:私のコンプレックスは周囲に対してうらやましいとか、人と比べての劣等感というところから生まれるものというよりは、自分が「こうありたい」と思う姿と現実のギャップが埋まらないことのフラストレーションから生まれているもののように思いますね。
小島:西井さん、一人だけコンプレックスの種類が違いますね。
コンプレックスを力に変えた、ターニングポイント
西井:三人それぞれコンプレックスを抱えているわけですが、仕事でのコンプレックス体験の中で「これがあったから自分の意識が変わった」といった出来事はありますか。
廣田:僕はCMプランナーになりたいと思って入社しながら、ビッグデータ分析の仕事をすることになってしまい、モヤモヤした気持ちを抱えていた時、ツイッターに出会ったことが意識が変わるきっかけになったと思います。
2010年くらいから、ツイッターがマーケティングに使えるのではないかと思いはじめて、社内でいろんな人「これからはソーシャルメディアの時代が来る!」みたいなことを説明してまわったんですけど…なかなか理解してもらえなくて。挙句の果てに、あだ名が「つぶやき」になりました。
結局、その後ソーシャルメディアがマーケティングの場で活用されるようになって、コミュニケーション・デザイナーとしての仕事につながっていくのですが、この時の悔しい思いが起爆剤になっていると思います。
小島:僕の場合は、流通企業のプロモーション担当で販促の現場で仕事をしていました。テレビCMを始めとしたマス広告の戦略が川上にあり、店頭プロモーションはその戦略に連動して実施される。企画の大枠を決められた上で、仕事をする環境がコンプレックスになっていました。
しかし、実際には戦略やマス広告だけで、人を動かすことはなかなか難しい。販売の最前線で、最終的に人をいかに動かすか、に関わる仕事はとても重要なものと思っています。今、「アクティベーション・プランナー」という職種を社内で提案していることにもつながっています。
廣田:広告会社に限らず、大手の企業は分業化が進んでいるので仕方ないところもありますよね。僕も、そこには日々葛藤があって、企画の立案から実施まで、部署に関係なく動くことができるような働き方ができれば、と思って肩書きを変えたりしています。とにかく、いろいろ関わってみたいなと思います。
西井:すべてを統括する廣田さんみたいな人を育成するというのも方向の一つですが、全体がわかりつつ、他の専門分野にも領域侵犯できる人たちが集まった集団、小さなユニットがこれからの時代には会っているのではないかと思っています。
プランナー集団ではなく、プロジェクトを統括してディレクションできる人、アートディレクターやクリエーティブディレクターなどが集まってプロフェッショナルとして動くことでクライアントにとっても良いことにつながると思っています。
それにより、「人」に依頼するのではなく「ユニット」に依頼できる体制が大事な気がしています。
廣田:ロールプレイングゲームのチームビルディングみたいな感じで、最初からいろんなキャラクターの人が集まると面白いユニットになりそうです。「勇者」だけが集まっても、機能するチームにはなりづらいですから。
小島:廣田さんにとっても「勇者」はクリエーティブディレクターですか?
廣田:僕の勝手なイメージですが、勇者は営業です。いろんな職能はあっても、最後は勇気、決断して厳しい状況に飛び込んでいく勇気のある人。どちらかというと、クリエーティブディレクターは魔法使いでしょうか。腕力ではどうにもこうにも出来ない時、魔法がかかると、一気に解決することってありますから。
西井:マーケターだからマーケティング、プロモーションだからプロモーションだけをやるのではなくて、分業はありつつも、良い意味で領域侵犯をしていくことが必要だと思います。私たちはコンプレックスを元に、そこをやっているような気がしています。
小島:逆にコンプレックスがなくなると領域侵犯もしなくなるし、ひどくなると「自分の領域冒さないで」っていう人も出てくる気がします。
…次回「ポジティブな推進力に変わる瞬間」に続く(明日12月5日公開予定です)
※本対談記事のダイジェスト版を「ウェブ電通報」でも掲載。
小島雄一郎 氏
電通 プロモーション・デザイン局 アクティベーション・プランナー
1983年生まれ。プロモーション・プランナーとして企画立案を担当する傍ら、若者研究部(電通ワカモン) の研究員として2012年に大学向けキャリア支援講座「ジブンと社会をつなぐ教室」、2013年に大学サークル向けウェブサービス「CircleApp(サークルアップ)」などの新規事業を立ち上げ。著書に『広告のやりかたで就活をやってみた』(宣伝会議)。
電通 プロモーション・デザイン局 アクティベーション・プランナー
1983年生まれ。プロモーション・プランナーとして企画立案を担当する傍ら、若者研究部(電通ワカモン) の研究員として2012年に大学向けキャリア支援講座「ジブンと社会をつなぐ教室」、2013年に大学サークル向けウェブサービス「CircleApp(サークルアップ)」などの新規事業を立ち上げ。著書に『広告のやりかたで就活をやってみた』(宣伝会議)。
西井美保子 氏
電通 ビジネスクリエーションセンター ストラテジック・プランナー
1986年生まれ。ギャルのマインドを調査する「電通ギャルラボ」と、10〜20代の若者を対象にしたプロジェクト「若者研究部(電通ワカモン)」の立ち上げに参画。女性向け・若者向け商品を中心に商品開発、リサーチ・プランニングまで幅広く担当し、さまざまな雑誌でコラム等も執筆している。著書に「パギャル消費~女子の7割が隠し持つ『ギャルマインド』研究~」(日経BP社)。
電通 ビジネスクリエーションセンター ストラテジック・プランナー
1986年生まれ。ギャルのマインドを調査する「電通ギャルラボ」と、10〜20代の若者を対象にしたプロジェクト「若者研究部(電通ワカモン)」の立ち上げに参画。女性向け・若者向け商品を中心に商品開発、リサーチ・プランニングまで幅広く担当し、さまざまな雑誌でコラム等も執筆している。著書に「パギャル消費~女子の7割が隠し持つ『ギャルマインド』研究~」(日経BP社)。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
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・「自分で手を動かす人の仕事術」(後編)
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■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(後編)
■内沼晋太郎さんに聞きに行く
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(後編)
■安藤美冬さんに聞きに行く
・「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(前編)
・「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(後編)
■阿部真大さんに聞きに行く
・「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(前編)
・「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(後編)