田端:ドラマで言うと「塗り絵力」の話とは別の観点で、メディア環境の変化を感じることがあります。それは、昔はコンテンツそのものとコンテンツを基点にしたコミュニケーション、そして広告がパキッと別れていた。以前は月9のドラマを見たら、その翌日に会社や学校でドラマについて話題にしていたけれど、今はドラマを見ながらツイッターで、皆で騒いで、コンテンツを基点にしたコミュニケーションも同時並行で進んでいく。
テレビ局側もリアルタイムに番組を見ながら、騒いでもらった方が、HDRに録ってCMがスキップされることを回避できるので、つっこまれる要素を盛り込んでいく。広告とコンテンツとコミュニケーションが三位一体化していますよね。
谷口:ネットでは「つっこまれビリティ」的なことは、10年以上前から言われていましたけどね。一時は、お金をかけた大型のキャンペーンサイトが席巻していましたが、改めてミニコンテンツを作ってきた人たちの時代が帰ってきた気がします。
嶋:でも、ちょっと「バイラル動画」に意識が偏りすぎている気も。最近、「バイラル動画を作ってほしい」という相談が増えています。フェイスブックが流行れば、「フェイスブックで何かしたい」という相談が増えるのと同じで、依然として課題解決の手段と目的がひっくり返ってしまう状況が繰り返されていますよね。課題に応じて、適切な手段を選ぶ、ニュートラルな発想がまだまだできていない人が多いと思います。
本田:確かに課題解決の手段がどんどん増えているから、そこに気をとられ、本来の目的が見えなくなってしまっている企業が増えたと感じます。手段が増えたので、ゴールもKPIもその分、増える。手段を並べただけで、それなりの企画書も書けてしまうというか…。
田端:クライアント側のオリエン力の重要性がますます高まっていますよね。
本田:「How」の話の前に、「What」と「ゴール」を提示してくれるだけでよいと思いますが。
嶋:今から10年前のオリエンシートは予算は総額いくらで、そのうちテレビはいくら、新聞はいくら……と、全てが決まっていました。それが今では「この課題をこの予算で解決してください」という形に変化はしましたが、逆に「何をしたいのか」、ビジョンが明確ではないオリエンも増えてしまった気がします。
本田:先日、クライアントさんから「どのくらいの売上目標にしたらいいですか?」と聞かれたこともありました。「我が社としては、戦略PRという手法は初めての取り組みでとても期待しているのだけれど、初めてのことなのでどれくらいの成果を見込めばいいかわからない…」と。これも、嶋さんの言う、手段と目的の逆転現象ですよね。
嶋:戦略PRも、マジックワードになりつつありますよね。戦略PRをやれば、何でも解決できると思ってしまうというか。PRの手段のOne of them にすぎないんだけど。LINEスタンプも、ちょっとマジックワード化していますよね。
田端:あと、最近はオムニチャネル。
嶋:皆でマジックワードに幻想を抱いて群がり、引いてを繰り返していますよね。
本田:確かに、状況を表す「バズ」っていうのもあると思うんです。「環境が変わってきたので、こういうやり方が効くようになってきた」という話ならいい。それが新しい手法が登場すると、それですべてが解決する、必殺一撃技…みたいな幻想を持たれるのが、おかしいんじゃないか、と。
嶋 浩一郎(しま・こういちろう)
博報堂ケトル編集者/クリエイティブディレクター
1968年生まれ。93年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。企業の広報・情報戦略に携わる。2001年朝日新聞社に出向。「SEVEN」編集ディレクター。02年~04年博報堂刊「広告」編集長。02年「本屋大賞」を企画。NPO本屋大賞実行委員会理事。06年既存の手法にとらわれないクリエイティブエージェンシー・博報堂ケトルを設立。ネットニュース「赤坂経済新聞」、カルチャー誌「ケトル」の編集も手がける。
谷口マサト(たにぐち・まさと)
LINE 広告事業部 チーフプロデューサー
1972年滋賀生まれ。横浜国立大学の建築学科を卒業後、空手修行のため渡米、主にヌンチャクを学ぶ。空手のテキサス州大会と柔術の大会で優勝した後、96年にいち早くネット業界に入る。制作会社を経て外資系のIT系コンサル会社へ。当時日本で数少ないIA(情報設計)の専門家として、大手コマースサイトのリニューアルを多数担当後、ライブドアへ。現在はLINEにて、企業とのタイアップ広告企画を担当する。一方で、運営する個人サイト「chakuwiki/借力」は累計4億2千万PVでベストブログ・オブ・イヤー賞(エンタメ部門)など受賞多数。サイトから発展した『バカ日本地図』などの書籍を宝島社などから6冊出版している。近著は『広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門』(宣伝会議)。
田端信太郎(たばた・しんたろう)
LINE 上級執行役員 法人ビジネス担当
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。リクルートにてフリーマガジン「R25」の立ち上げを行う。2005年、ライブドアに入社。ライブドアニュースの責任者を経て執行役員メディア事業部長となり、ライブドアのメディア事業の再生をリード。
2012年、NHN Japan(現・LINE)執行役員に就任。広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。主な著書は、本田氏との共著である『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』の他、『MEDIA MAKERS-社会が動く「影響力」の正体』(宣伝会議)がある。
本田哲也(ほんだ・てつや)
ブルーカレント・ジャパン 代表取締役社長
1970年生まれ。戦略PRプランナー。米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。セガ、フライシュマン・ヒラード日本法人を経て、2006年グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。国内外の大手メーカーなどを中心に、戦略PRの実績多数。戦略PR関連の講演実績多数。主な著書は『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(共著)、『その1人が30万人を動かす!』『 戦略PR 実践編 』『最新 戦略PR 入門編 』がある。