複雑化によるシステムの無駄を削減する方向へ
——アメリカではデジタルマーケットのトレンドが大きく変化していると聞きました。具体的にはどのような動きがあるのでしょうか?
これまでテレビに使われていた広告予算がデジタルマーケティングに大きく動いているというのがここ1、2年の大きな特徴といえます。
また、当社においても2013年から2014年にかけての1年で、programmatic ad(プログラムで行われる デジタル広告の取引)の収入は4%成長して全体の34%にまで大きく伸びています。
——それだけ大きく伸びた一番の理由はどういうところにあるのでしょうか?
それには2つの理由があります。1つ目は、実際の広告主が「マーケティングの自動化による具体的なメリット」について充分に理解し始めたということ。2つ目が、それに結果が伴っているということです。
また、ツールそのものも、広告主および広告会社が活用するにあたって非常に効率が良いものに進化しており、効果が上がってきています。我々が対応しようとしている問題はいわゆる「*テックタックス(Tech Tax)」と呼ばれているものです。例えば広告主が1ドル使うとした場合に、最終的にはメディアにどれだけ効率的にその1ドルが使われるかということです。現状では1ドルのうちの25~45セントしか使われていません。なぜなら、広告主と最終的に広告が表示されるメディアとの間にはさまざまなシステム(会社)が入っていて、そこで手数料が抜かれているからです。そして、この広告主とメディアとの間の状態は非常に混乱しています。
——日本でも「カオスマップ」という名前でその間を示した図があります。
確かにカオスそのものですね(笑)。この複雑な状態を1つのプラットフォームに集約して簡略化していこうというのが、われわれAOLプラットフォームの目指すところです。売り手と買い手の間にプラットフォームを置くことで、在庫やデータ、それからクロスセクション、プログラムマーケットなどを使いながら簡略化していきます。この簡略化によって、これまでは1ドルの使用で25~45セントだったメディア効果を80セントまで引き上げることができました。
——著書『超先進企業が駆使するデジタル戦略(原題:CONVERGE)』の中でも、メディアとテクノロジーとクリエイティブの融合の重要性について語られていますが、そういったことをうまく実践している企業に特徴はありますか?
非常にうまくコンバージョンをやっている会社はたくさんあると思います。例えばAmazonは、テクノロジーを使ってコンテンツを配信したり、クリエイティビティをうまく創造した成功事例のひとつだと思います。
また、一般消費者向けの商品として本の中で触れたものとしては、ケロッグやスターバックスがあります。テクノロジーを使って自社のブランド商品をサービスに変えていく、そういった企業がたくさんありますね。例えば我々はナイキをスニーカーの会社と捉えずに、ヘルスケアの会社だと捉えなおしました。これによって、スマートフォンアプリの「NIKE+」など、健康管理や健康増進につながるようなツールを提供し、商品だけでなくその先のサービスを生み出したのです。これなどよい例だと思います。
——そういった変革ができる企業の、組織上の特徴のようなものがあれば教えてください。
まず、リーダーシップがあるということでしょう。会社のトップがしっかりと「自分たちが変更を起こしている中心であるという意識」を持たないといけないでしょう。本の中でも触れていますが、カスタマージャーニーという、「顧客がどのような道筋をたどるのか」を念頭に置いて、常に顧客重視であることを忘れずに活動しているという特徴があります。
もう1つ大事な特徴として挙げられるのが、企業内の縦割りをなくしていけるということです。デジタル分野に強いということだけでなく、こうしたことができる企業こそが変革のできる企業だと思います。なお、「縦割りをなくす」と言うと「組織・企業を壊す」と誤解して抵抗を感じる方も多いのですが、実際はそうではなく、あくまで「顧客の要求するものを満たす」ことを中心に置くのがポイントです。従って、単に組織を壊せばよいという意味ではありません。
——そういった変革をサポートしていく側のまさに貴社のような役割を果たす会社には、どういう能力が求められているのでしょうか?
まず、新しいテクノロジーを試して実験的に使ってみるという考えを会社の方針として持つことが重要です。それによって、コンシューマーに常に新しく革新的なやり方でアプローチするためにはどうすればいいのか、を常に模索する姿勢が生まれます。変化を恐れず、「常に新しいテクノロジーを実験的に使ってみよう」という精神を持ち続けなければいけないと思っています。
アメリカでは長い間、このプログラムマーケティングや、自動的にメディアプランニングを行うということに対して「本当に効果的なのか」「自分たちの仕事はどうなるのか」という理由から抵抗する力が非常に強かった時代がありました。しかしながら、先進的に取り組んだ広告主や広告会社が「自動化できる」さらに「自動化は効果的だ」ということをはじめ、さまざまなメリットを体験したことで、これまでは不要な作業をしていたということに気付いたとたん、こうした仕組みが急速に普及してきました。
我々は、コンシューマーに対して効果的にアプローチしてコミュニケーションするために、誰をターゲットにすべきなのか、そしてどういったメッセージが適切なのか、どこに広告在庫が必要なのかといったことを、これらの仕組みを使って適切に提案していく。そういう役割が求められます。