ネット動画が流通対策になる
もう一つ紹介したい事例が、ライオンさんがテレビ新広島と取組んだ動画活用です。これは説明が難しい仕組みなので、まず構造図をじっくり見てください。
「ひろしま満点ママ!!」は、月金で放送している地元で大人気の情報番組です。そのスタッフと出演者が家庭を舞台にしたドラマをシリーズで制作します。物語は歯磨き、掃除などライオン製品とどこか関連性があり、ドラマ部分が終わるとライオンの研究員が“暮らしのマイスター”として、それぞれのテーマの豆知識が解説される、というものです。全体を通して「〜for my life〜」というタイトルがつけられています。
Facebook上でまとまって視聴できますので、何話か見てください。
→「ひろしま満点ママ!!」Facebookページ内動画コーナー
この仕組みで面白いのは、ローカルの情報番組のスタッフが、普段作ったことのない“ドラマ”を制作している点です。視聴者としても、番組で慣れ親しんだリポーターがドラマに主演するのはうれしいはずです。そしてこのドラマはネット動画、なのです。テレビ局が作ったのにテレビでは放送してないのです。Facebookページのファンだけのお楽しみ。それがさらに親近感を高めるでしょう。
さて上の構造図で大事なのは、右下の「広島県内店頭VTR」という部分。放送はしないけど、おたくの店頭では流します、と流通へのプッシュにこのドラマ企画を使うわけです。地元のテレビ局の人気番組が作ったドラマですから、流通さんも振り向いてくれそうですよね。
テレビCMの効用の大きな要素に、流通対策があります。テレビで○○GRP流します、じゃあ棚を確保しましょう、そういう商談のためにX億円払うのはムダではない。それと似た効果を、広島県というひとつのエリアでこの仕組みはもたらそうとしている。
ネットで動画を作ろうというとき、こういう視点はすごく大事だと思います。そして動画にはそういう意味で影響力があるのです。コクヨチャンネルの「あの街この街コクヨのある街」も、ロケが来る!という時は地元で盛り上がってくれるそうです。ビデオカメラを抱えたプロのクルーが身近にやってくると、人は高揚する、楽しくなる。ネット動画が、リアルの場で人をウキウキさせる。そのことを私たちは認識した方がいい。そういう実際に人々を動かす様子を想像しないで、まったくネットの中しかイメージしない動画づくりは、映像本来の力を活かしていないと私は思うのです。
それから、ライオンさんはつい最近、新しいオウンドメディア「Lidia」を発表しました。その中心人物の一人、ライオン宣伝部・中村大亮さんは、「〜for my life〜」の仕掛け人でもあります。中村さんは実は、ずいぶん前から地方局と力を合わせた仕組みを試みています。「〜for my life〜」はきっと「Lidia」とも関連づけられると私はにらんでいます。この延長線上には、テレビ放送とオウンドメディアを結びつけた企画もありそうですね。そんな風に、コミュニケーション戦略の全体像の中で、ネット動画をどうとらえて役割を付与するかも大事な視点だと思います。
ネット動画が盛り上がるのは喜ばしいことだと思います。ただ、ぱぱっと作ってバイラルしなくてがっかり、で終わってほしくない。いい映像をつくってほしいし、戦略的に考えた方がいい。そしていちばん大事なのは、送り手の側が伝えたい思いを持っていること。動画に走る前に、そこんとこ、自分に聞いてみてください。