【前回のコラム「「iemo」の成功から広告が学べること——創業者の村田マリさんに聞きに行く」はこちら】
広告はフィクション
須田:今回の対談相手は、ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」を率いる猪子寿之さん。企業からの依頼でWebサイト制作など広告コミュニケーションのお仕事をする一方で、ちょうど今、日本科学未来館で展覧会「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」を行っているようにアート作品も制作している。
今日は、広告という枠を飛び越えて活躍する猪子さんを通して、いま広告に何が求められていくのかを探っていきたいと思う。猪子さんは、現在の広告界をどんな風に見ている?
猪子:そうだなあ、一般的にインターネットの登場によって、テレビや新聞といった20世紀の広告メディアが衰退し、次第に21世紀のメディアであるネットに移行していくと言われている。だけど、僕は必ずしもそういう構図ではないと思っている。
ネットの出現によって、これまでの広告という手法そのものが以前よりも効かなくなり、効果が薄れていく時代になっているんだと思う。
なぜなら、ネット上に「今、僕、ラーメンを食べた」のようなリアルな情報があふれ出したから。リアルな情報のほうが、フィクションよりも説得力がある。だから、これまでのマスメディアを中心とした広告の代替物にネットがなるのではなく、広告そのものが効かなくなっていくと思っている。
須田:広告はフィクションだから、リアルに負けて、だんだん効かなくなるということ?
猪子:そう。20世紀後半の広告は、テレビCMを筆頭にコンテンツ化され、ものすごくクリエイティブになっていったと思う。
例えば、日清食品のカップヌードルのテレビCM「Hungry?」。僕も小さい頃に見て「すげえ」って感動した。でも、リアルな情報がネットを通じて、爆発的に流通している現代から見ると、「Hungry?」さえもフィクションゆえに心に届かないように感じる。いま世間ですごいと評価されているCMは何?
須田:うーん、何だろう。サントリー ペプシネックスゼロの小栗旬くんが桃太郎に扮するCMかな。
猪子:じゃあ、いま実際に見てみよう。うん、これはお金もかかっているし、最高にクオリティが高いね。でも、この人、毎日、桃太郎のかっこをしているわけではないし、鬼退治に行ったりもしていないでしょ?
この人が誰かから頼まれたわけでもないのに、毎日、桃太郎のかっこをして、勝手に鬼退治に行ったりしている人なら、激アツだと思う。そして、それをプロが超かっこよく撮ったんだったのなら面白いんだけど、この人、そういう人じゃないよね?
須田:たしかに小栗くんは普段、鬼退治はしていないと思う(笑)。では、なぜフィクションだとダメなの?
猪子:フィクションの情報しか流通しない時代には、そのフィクションのなかでもっとも最高のクオリティを出せば人々に届いた。でも、今はさっきも言ったように、ネットで本当のことや、言ってはいけないアンタッチャブルなものまでがあふれている。みんなリアルなことの方に興味があるから、だんだんフィクションの情報には関心が向かなくなるんだと思う。そうなると、広告業界で評価されていたとしても、ユーザーにはあまり響かなくなっていくんじゃないかな。
須田:では、フィクションが効かない時代に広告はどうしたらいいのだろう?
猪子:本当のことを言うしかない。昔、アップルのテレビCMでiPhoneやiPadでゲームをしたり、音楽を演奏したりするシーンだけを見せるというものがあった。商品でただ遊んでいる様子を紹介しているだけ。広告もドキュメンタリーに近い考え方になればいい。