自分の係りをまっとうする
須田:猪子さんはテレビ番組に出演したり、さまざまな取材を受けている。猪子さんの到着を待っている間に、チームラボの広報担当の方から、自分たちが伝えたいこととメディア側の意図が必ずしも一致しないことがあって悩ましい、という話を聞いた(笑)
猪子:それは無理でしょ、うちの広報はそんな古い幻想をあきらめた方がいいよね。だって、チームラボのための番組じゃないわけだし。
須田:猪子さんには、「この取材には出る、これは出ない」、といった基準はあるの?どういう考えでメディアに登場しているの?
猪子:もともと僕は、取材やテレビ出演がすごく苦手で嫌いだった。初めてテレビに出演する時なんか、イヤでイヤで仕方が無くてトイレで泣いたもん。でも今は、自分がそこに出る役割があるのなら、できる限り役割をまっとうして、自分の発言でなんらかの価値をほんの少しでも提供できたらいいと思っている。
須田:取材記事や出演番組を見ていると、猪子さんは予定調和を嫌う印象がある。話がある方向に流れていっていても、それをあえて受けずに、ぜんぜん違う発言ができるのはすごいなと思う。
猪子:予定調和が嫌いというよりも、流れを読んで話をするスキルがない。せっかく声を掛けてくれたんだから、自分の係りをまっとうしたい、という思いだけ。
須田:猪子さんは、何の「係り」なの?
猪子:僕は、ほんの少しでも、人類を前に進める係りができたらいいと思っている。10代のときに情報社会の到来に感動して以来、デジタルという概念が人類を前に進めると思っている。
そういう意味では、シリコンバレーはすごいよね。ものすごいエネルギーとスピードで開発して、競争して、人間の個人の脳を拡張させようとしている。パソコンは脳の記憶や計算量だし、須田さんが所属しているFacebookは人間関係だよね。Twitterも発言の拡張でしょ。
文化として人間の脳を拡げることが根付いているのを見ていると、僕が担当する係りは無いのかもと思う。だから、僕は個人ではなくて、空間を拡張できればいいなと思っている。例えば、そこに木があるかないかで、集団の行動は変わると思うんだ。
須田:いま開催中の展覧会を見て、猪子さんたちチームラボは、シリコンバレーとはアプローチの方向が真逆だと思った。ユーザーの自己意識の拡張というよりも、アート側をユーザーの方へ拡張し、巻き込ませようとしているように感じた。
猪子:チームラボのやろうとしていることは、海外に持って行こうとしたら、すごい量の機材とスタッフを、担いで運ばなきゃいけないものだったりするでしょ。効率悪いし、儲からないし、世界規模に一気にスケールしていかないから、シリコンバレーの人たちは絶対にやらないと思うんだ。
もちろん、自分の好みも複雑にからんでいるけれど、それが僕の係りになればいいなと思っている。
須田:展覧会では、僕のなかで普段は発露していない感情が、身体的な行為のなかから自然に出現した。結果として、シリコンバレーとは違ったカタチで自己意識を拡張してくれていたと思う。
今日の話に出てきた、「リアルなものが力を持つ」「コントロールすることをあきらめる」「自分の係りを意識する」という3つのキーワードは、いまの時代の広告コミュニケーションを設計するうえで、とても大事なことだと思うし、共感する。
この対談でも、自分の「係り」をまっとうしてくれて、ありがとう。
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