コンビニスイーツ人気の余波
しかし順調に進み始めたビジネスに転機が訪れる。「2007年頃から、コンビニが生菓子に力を入れるようになり、小さな菓子店が次々と閉店し始め、B2B通販以外の事業拡大が急務となったのです」。
そこで佐藤氏が着目したが、B2C市場だった。
特に菓子作りは趣味で楽しみながら、セミプロと言えるような腕前を持つ人たちが多くいる領域。そもそも小ロットで購入できるタイセイの特徴が、セミプロ層にもマッチするのではないか。そんな考えから、ネット通販サイト「cotta」を立ち上げ。B2Cに広げる際に、包装資材に加え、製菓材料の品揃えも強化し、菓子作りに必要な材料すべてが揃う体制を整えていった。
現在「cotta」のサイトでは菓子のレシピだけでなく、そのラッピングスタイルまで提案しており、サイト内には、魅力的な写真が並んでいる。
しかし、実はサイト内のレシピコンテンツの多くは、同社内では制作していない。コンテンツは、「cotta」に協力している人気ブロガーたちが独自に制作しているものだ。
タイセイではB2C市場開拓を目指し、「cotta」を開設した2008年頃から、菓子作りのセミプロたちにヒアリングを実施。その中で自身のレシピを公開しているブロガーの多くが、ゆくゆくは自分のレシピ本を出したい、料理教室を開きたいと料理研究家としての活躍を目指していることが見えてきた。
良いレシピを提案できれば、自分の作ったコンテンツが「cotta」に載り、より多くの人に見てもらえる。そして企業からも仕事が来る…。そんな噂は、菓子作りを趣味とする女性たちの間で広まり、自分も「cotta」で仕事をしたいという問い合わせが増加。
現在は15名の「モニターブロガー」の他、その下に「モニターブロガー」入りを目指す、約250名の「プレミアムメンバー」を抱えている。
その後、2014年1月には東京に「cotta」運営の拠点となる別会社TUKURUを立ち上げている。
東京にコンテンツを作る拠点
佐藤氏が東京に新会社TUKURUを立ち上げた理由。それは、「cotta」の運営だけに留まらない。
「システム投資に莫大なコストがかかるため、ネット通販ビジネスだけで利益を上げるのは難しいと感じています。物販だけでは、なかなか利益が上げられないなら、それ以外の事業開発が必要。その事業開発の役割を担うのがTUKURUです」。
さらにPVを増やし、広告メディア化する。コンテンツの質を高め、ユーザーからの課金モデルを構築する…。
いずれにしろ、物販を目的とした現在のECサイト「cotta」では、広告メディア化や課金ビジネスは難しいと判断。そこで現在は、TUKURUで「cotta 」とは別のレシピサイトの立ち上げ準備をしている。
「理想はクックパッドのお菓子特化版みたいなイメージです」と佐藤氏は話す。
レシピは蓄積型のコンテンツ
菓子レシピの強みは流行り廃りがなく、蓄積していくコンテンツであるということ。
「cotta」でのサイト運営のノウハウを生かし、魅力的なレシピコンテンツを基にしたサイトを立ち上げれば、物販以外の事業開拓の可能性が広がるのではないか。ブロガーの協力を得ながらレシピを開発し、そのサイトで新たな収益モデルを開拓する。さらには、そのサイトから物販を行う「cotta」への導線も作っていく…。
B2B向けの製菓資材販売から始まったタイセイのビジネスだが、ネット通販の開始以降、大きく動き始めている。全国の3000軒以上の菓子店を自らの足で回り、お客様のニーズを直接聞き、事業を立ち上げた佐藤氏。その事業領域がB2Cへと広がっても、常にお客様の中に、新たなビジネスのヒントを見つける姿勢に変わりはない。
佐藤成一(タイセイ代表取締役社長)
1958年大分県津久見市生まれ。大学卒業後、25歳で義父が経営する食品鮮度保持剤のメーカーに入社(現・鳥繁産業)。同社営業マンとして全国の菓子店をまわる。1998年40歳のときに、全国の菓子店に包装資材を小ロットで通信販売する会社として、タイセイを創業する。2005年に福岡証券取引所Q-Board市場に株式を上場。2013年には東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場する。
「100万社のマーケティング創刊」
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