分業を選んだら、意志疎通に労力を割く覚悟を
ズーニー:上司とは、もっと隔たりが生まれます。何十億の重圧を背負って、祈るように決断を下している人の気持ちは、企画や制作部門にはわからなくて当然ですよね。
そこで必要なのは、見ている風景がまったく違う相手に分かってもらえる「翻訳」の作業です。どういう言い方をしたら伝わるのか、コミュニケーションにすごく骨身を削らないといけない。会社でのびのびと働いている人は、その点にすごく労力をかけています。
私は、今はフリーランスなので、全部ひとりでやりますが、これはこれですごく面倒くさい。だから、どちらの面倒くささを選ぶのか、ということなんです。
小島:「やりたいことができない」「わかってもらえない」といって2、3年で転職する人も多いと思いますが、コミュニケーション不足なんでしょうか?
ズーニー:というよりも、そもそも会社に就職した時点で「分業を選択したのだ」という意識がないことが、最初のボタンの掛け違えなんでしょうね。
やっぱり、人は人に理解されないとストレスが貯まりますし、通じないと傷つきます。じゃあなぜ、分業の権化のような「会社」に入るのかというと、それには明快な答えがあって、個人の規模では一生到達できないインパクトで社会に働きかけられるからです。
「就職」という形で社会と直接へその緒をつなぐのか、それともすでに社会とへその緒でつながっている会社という場所に「就社」するのか。後者を選んだのなら、個人で温めてきた志をいったん「組織での自分」の仕様に組み替えて、意志疎通に労力を割く覚悟をしてねと。それが見落とされているから、ミスマッチが起きているんだと思います。
小島:「就職」と「就社」、すごく腑に落ちました。就活は実際には「就社」の意味合いですね。
後編(1月16日公開)へつづく
※本対談記事は「ウェブ電通報」でも掲載。
山田ズーニー
文章表現・コミュニケーションインストラクター。Benesse小論文編集長を経て独立。フリーランスで大学や企業で文章表現力・コミュニケーション力・自己表現の教育を展開。慶應大学非常勤講師。著書『伝わる・揺さぶる!文章を書く』『あなたの話はなぜ「通じない」のか』など。ほぼ日刊イトイ新聞にて 「おとなの小論文教室。」連載中。
「電通」に関連する記事はこちら
「なぜ君たちは就活になるとみんな同じことばかりしゃべりだすのか。」
広告コミュニケーションのノウハウで就職活動生の悩みの解決に取り組む、電通×マスメディアンの共同プロジェクト「ジブンと社会をつなぐ教室」のメソッドを余すことなく書籍化。なぜ君たちは、就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。そんな疑問を抱いた6人の広告プランナーが作り上げたメソッドを紹介する就活生必見の書籍。