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武山 政直(慶應義塾大学 経済学部 教授)
サービス=顧客×企業の価値共創
サービスをデザインするという考えは、1970年代後半のサービスマーケティングの研究に起源を持つ。
しかし1980年代以降、まずドイツやイタリアの大学で、続いて北欧や米国の大学で、デザイン教育のプログラムの中にサービスデザインが位置づけられたことをきっかけに、新たなデザインアプローチとして世界各国へと広がっていくことになる。
90年代に入ると、イギリスにサービスデザインを専門とするコンサルティング会社が誕生し、企業や公共部門のサービスの改善やイノベーションをサポートする動きが現れ、また大企業のインハウスのデザインセンターの中にも同分野の手法を取り込むケースが見られるようになる。
さらに2004年以降はサービスデザインネットワーク(Service Design Network)と呼ばれる国際機関がサービスデザインのグローバルな普及啓蒙を推進するようになり、2013年には本機関の日本支部の設立に至っている。
現在のところ、サービスデザインの導入や応用に積極的な領域には、デジタル技術を生かしたサービスのエクスペリエンスデザイン、政府や自治体などの公共部門やコミュニティレベルのソーシャルサービスのデザイン、そしてサービス経済におけるビジネスデザインの3つがあり、相互の重なりも徐々に広がりつつある(図1)。
サービスデザインはその名が表わすように、サービスの創出に関わるデザインのアプローチである。
各種のデザイン領域をはじめ、その他の周辺領域とも関わりを持ちながら今日も進化を続けているため、その共通の定義や対象範囲は必ずしも明確に規定されているわけではない。
以下では、特にビジネスやマーケティング論との関わりからサービスデザインの研究や実践に取り組んでいる筆者の観点から、当分野に寄せられている期待とその意義について述べる。
まずビジネスにとってのサービスデザインの魅力を知るには、サービスという言葉をプロダクトとの対比で理解するのでなく、ビジネス(そして価値)を捉えるフレームワームとして認識することが重要だ。
日本を含む先進諸国の経済において、三次産業の占める割合が高まっていることは周知の通りであり、モノづくりからコトづくりへの転換を促す指摘も見られる。
しかし、今日のビジネスにとってより本質的な変化は、企業の生産物に価値を置く発想(グッズドミナント・ロジック)から、企業の提供物がカスタマーに使用されるコンテキストに価値を追求する発想(サービスドミナント・ロジック)への切り換えである(図2)。
そのような価値認識の転換の背景には、ビジネスを取り巻くいくつかの環境変化がある。
第一に、事業の差別化は、企業提供物の特性から、それが使用される環境やストーリー、アウトカムを含んだカスタマーエクスペリエンスへと争点が移ってきている。
第二に、ナイキ社のナイキプラスや、コマツ社のKOMTRAXといった事例に代表されるように、情報技術のユビキタス化によって様々なプロダクトがセンサーやネットワークとつながり、その結果、企業がカスタマーのプロダクトの利用場面にリアルタイムに介入する機会が広がっている。
第三に、カーシェアリングをはじめ、近年様々なシェアサービスが登場し、またロールスロイス社が航空機エンジンの販売を飛行時間による課金モデルへと転換したように、コンシューマ領域や業務領域で、所有モデルからアクセスモデルへと事業モデルのシフトが起こっている。
これらの変化に共通するのは、企業が競争する対象やフィールドが、企業の提供物やそれを中心に形成されるマーケットから、カスタマーがそれらの提供物を使用し、価値を創出する生活や業務のコンテキストへ、さらにそこに生み出される新たなサービスへとシフトする傾向である。
マーケティング論のサービスドミナント・ロジックの考え方に指摘されるように、サービスとは、ある主体(カスタマーなど)の生活や業務のコンテキストに別の主体(企業など)が参加して、価値を共創することを意味する。
つまり、製品、ソフトウェア、情報コンテンツ、店舗、人的パフォーマンスといった企業の提供物は、その形態の違いに関わらず、いずれもそのような価値共創に用いられるリソースとして認識され、それに関わるビジネスは全てサービスのビジネスとみなされるようになる。
筆者は、サービスデザインを、このようなサービスドミナントな発想から既存のビジネスのリフレーミングを行い、イノベーションを創出するデザインのアプローチと考えている。それは事業主体が生活者やビジネスカスタマーのコンテキストを把握するとともに、そこからカスタマーにとってより高い価値やアウトカムを達成する方策を考え、またそのコンテキスト自体の革新の可能性について検討し、それらを実現させる。
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