CASE STUDY:サービスデザインの実例
1 ポルトガルの国営空港公社のサービス改革
ポルトガル空港公社では、2008年から2年間をかけて空港サービスの質の向上に取り組んだ。
そのプロジェクトをサポートしたのは、イギリスを代表するサービスデザインエージェンシーのEngine。掲げられた目標は、空港事業を取り巻く国際的な競争激化の中で、同空港が旅客との直接的リレーションシップを構築し、魅力的なブランドの確立によって収益を確保することである。
同プロジェクトでは、まず、旅客のインサイトから空港の新たな役割のアイデンティティー(助言者、仲間、英雄)を定義した。
その後、セキュリティや旅客向け情報提供を含む9つのサービス領域に対して、継続的に利用可能なデザインマネジメントツール群(デザイン指針、活用事例、評価指標)と、空港内全体の旅客エクスペリエンスの向上と収益をもたらすサービスを創出した。
ブランドから個々のサービスまでを、その拡張性にも配慮しながら一貫性を保って実現し、旅客便益と収益の両立を図るとともに、社員のスキル開発から組織マネジメントまでを包括的に行っている点で、本プロジェクトはサービスデザインの事例として高い評価を受けている。
またそのプロセスにおいては、一連の提案について社内のステークホルダーに説明を幾度も繰り返し、さらにリテールマーケティングなどの社内部門、航空会社や旅行代理店などの外部パートナーとのコラボレーションにも相当に尽力したことが報告されている。
2 フィリップスの事業転換
近年、グローバルな家電メーカーからヘルスケア事業を中核とするプロダクト・サービスプロバイダへと転身を遂げるフィリップスは、2010年頃からプロダクトとサービスを融合した新規事業の開発、さらに同社全体の事業戦略や組織構造の転換にサービスデザインを役立てている。
まず、事業担当から事業部門、そして企業全体として事業イノベーションの明確なビジョンを共有するため、同社のサービスデザインチームは、リサーチに基づくトレンドの把握や、事業機会やビジネスモデルの可能性の探索を行い、それらの結果から、統合されたプロダクト・サービスのビジョンを提供する。
また、そのビジョン実現のための資金を獲得するフェーズでは、サービスデザインのプロトタイピング手法を用いて複数の提案の中からフィージビリティや事業価値を評価する事業パイロットに向けた選考を行う。
さらに、パイロットを企業の取り組みとして発展させるため、サービスデザインチームはIT部門やマーケティング部門との連携を推進し、加えてR&D部門の取り組みをユーザの要求と結びつけることを目的とした、R&Dとのジョイントリサーチにも取り組んでいる。
我が国の製造業でも、今後プロダクト・サービスイノベーションに向けた様々なチャレンジに取り組まれることが期待されるが、サービスデザインをそのような事業転換のためのチェンジエージェントとして取り入れていくことが有効である。