「オムニチャネル」とは、オン/オフあらゆる顧客接点を統合すること

いかに実務に落とし込むか

オムニチャネル活用を成功に導くためには、特に以下の3つの点について注意を払う必要がある。

(1)コスト構造を理解する

日本経済新聞(2014年10月24日付)の記事では、米アマゾンの7~9月の決算結果が、約470億円の赤字だったことが発表された。設備投資を勘案しても赤字が目立つ。

米国高級スーパーA社は、ネット事業が実店舗より収益率がおよそ10%低いことを報告している。採算性が悪化した理由として、物流費用を推測できる。

顧客が消費までに支払う総費用には、店頭価格以外にも、情報探索や移動費用などの消費者流通費用がある。この費用は消費者が気付きにくい費用であり、物流費用(配送料)を負担することに抵抗感を覚えやすい。この状態では売れば売れるほど物流費用がかさむ。

しばしばICTを利用することで費用が削減できると言われるが、それは「情報関連費用の節約であり、物流費用節約は限定的である」ことに注意が必要になる。

ネット販売に伴い増加する費用と節約できる費用を企業側と消費者側に分けて(図4)のようにまとめることができる。 従って、販売経路をネットまで広げようとする場合は、物流費用対策が重要になるが、その対策としては、次の三つの視点が参考になる。

一つは、1品目当たりの物流費用を減らすこと。「アマゾン」は、大規模物流投資とまとめ買いを誘導することによって、長期的に1品目当たり物流費を減らそうとしている※2。

二つ目は、自社が負担しない仕組みを作ること。「ヤフーオークション」や「楽天」の場合は、サイトを利用する当事者に「転嫁」している。

そして最後に、物流費用をゼロに抑えることである。物流費用ゼロ、つまりネットでは販売しないという考えだ。販売は実店舗だけにして、ネットでは宣伝活動・顧客情報収集・顧客対応など、コミュニケーション関連活動だけに絞る方法である。

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(2)組織体制を整備する

オムニチャネルを進める小売には、チャネル部門間調整だけではなく、職能部門間、商品部内バイヤー間といった3重の複雑な調整が求められる。

同一顧客に向けての調整を各担当者自律に任せると、業務内容と利害関係の違いからうまくいかない場合が多い。その対策としては、顧客を中心に意思決定する組織文化づくりと、調整役を担う専門組織の立ち上げが考えられる。

高いデータ分析能力は高い調整能力になるため、新組織には、データ分析機能と仮説構築・検証機能を持たせることが望ましい。

組織内部における調整役の重要性は、データ分析業務を内部化することの必要性を示唆している。オムニチャネル・ビッグデータ分析・CRMに取り組む小売の中には、データ分析業務を内部化するか外部化するかで迷う企業も少なくないだろう。

データ分析専門会社など、外部資源に依存する場合も、同時に内部で人材を育成する必要がある。

(3)顧客適応によるコストダウン戦略

オムニチャネルはある意味、顧客適応化戦略でもある。つまり、顧客一人ひとりに最適な商品・サービスを提供するための取り組みと言えるのだ。

顧客適応化戦略の阻害要因の一つにコスト問題がある。顧客が企業ならば顧客適応戦略で収益を出すことも可能だが、オムニチャネルは個人を相手にするために、投資に見合う収益を得ることが難しい。一つの対策としては、店舗業務をできる限り本部が吸収することが考えられる。例えば、店舗で行っているローカル市場の情報収集・対応を、本部の専門組織が分析して、関連業務を標準化することである。

これにより、店舗部門の負担減少だけではなく、店舗間格差問題の一部解決にもつながる。

※2 新聞記事から米アマゾンの赤字について触れたが、まとめ買い誘導と物流投資によって、1品目当たりの物流費用は下がっている。

拡大していく活用目的

オムニチャネルは、既存顧客との関係がテーマになり、新規顧客を開拓する視点はあまり持たなくなる。

しかし、購買経験がない商品であっても顧客属性と一致する属性を持った商品であれば提案できる。この「提案可能性」が新規顧客獲得につながる力を秘めている。異なる業種・業態間でも「同じ属性」の商品を提供する企業同士で水平的ネットワークを形成し、お互いが新規顧客獲得を支援(送客)する発想である。

韓流ブームの時に、TSUTAYAで韓流ドラマをレンタルする中年女性顧客に、ファミリーマートが開発したブルゴギおにぎりのクーポンを渡したことで、普段なかなかコンビニに足を運んでくれない顧客層獲得を狙った事例がある。

さらに目線を変えて、オムニチャネルの対消費者戦略以外の使い道を探してみたい。

オムニチャネルは、あらゆるチャネルから顧客情報を集めると考えることもできる。実はこのデータは、メーカーが集めようとしても難しいデータである。POSデータからも顧客データを得ることができるが、顧客情報の質が異なる。

メーカーは、リピートデータ分析から、ターゲット設定が間違っていないかを確認することができる。また顧客属性を利用してブランド・スイッチングを試みることもできる。メーカーにとっては重要な情報であるために、この情報を軸にして協調的関係を構築することが考えられる。

山梨県を中心に事業展開する食品スーパー「オギノ」は、次ページで事例として取り上げる「サンキュードラッグ」同様、ID-POSデータから得た分析結果を、仕入先との協調的関係形成に活用している。厳しい環境変化が、小売側にオムニチャネル対応を強く迫っていることは確かである。

より成功的なオムニチャネル活用になるよう、一つ提案したいことがある。オムニチャネルを、「コミュニケーション型」と「販売経路型」に分けて、「順番を付ける」ことである。

①ネット販売には物流費用が発生すること、②物流が絡む場合は調整がさらに複雑になること、③競争構造が急変すること、④ICT活用により情報関連費用を飛躍的に節約できること。

この四つを考慮すると、「販売経路」としてオムニチャネルを活用することは、阻害要因対策が立ててから実施することにして、それまでは、情報のやり取りだけで済ませる「コミュニケーション手段」としてのオムニチャネルを活用することから始めるのも、一つの手である。

次ページ CASE STUDY「オムニチャネルの実例」

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