CASE STUDY「オムニチャネルの実例」
1 Home Plusの仮想ストア
韓国のテスコ系列の総合スーパー「Home Plus」は、2011年8月にソウル市地下鉄駅に、仮想ストア第1号店をオープンした。
スマートフォンに専用アプリケーションをダウンロードして、写真のように駅内の柱やスクリーンドアに付着されている約500品目の商品写真のQRコードを読み取り注文すると、商品が自宅に配送される仕組みである。
昼の1時までに注文するとその日のうちに配送される。注文金額が約3000円を超えると約400円の配送料がかかる。
「Home Plus」側は、3A(Any time:いつでも、Any where:どこからも、Any place:どこでも受け取れる)を謳い文句に、30~40代をターゲットにした。その斬新性が話題を呼び、多くのメディアで取り上げられ、2011年には世界三大広告賞の一つ、カンヌライオンズでメディア部門グランプリを受賞、2012年にはテスコ本社にも逆採用された。
仮想ストア事業の決算内訳を発表していないので正確なことは分からないが、前述した物流費用などの阻害要因を考慮すると、この事業単独で収益をあげているとは考えにくい。
しかし、宣伝効果により、実店舗を訪れる顧客が増えた可能性もある。同社が、仮想ストアを「コミュニケーション手段」と「販売経路」の中でどちらに重きを置いて使っているかは分からない(両方を目指しているかも知れない)。この事例は、実店舗を販売経路にしながら、ネット空間を顧客とのコミュニケーション接点とすることの可能性を示唆している。
2 サンキュードラッグ
サンキュードラッグは、北九州市・下関市を中心に、ドラッグストア41店舗と調剤薬局25店舗(2014年3月時点)を展開しており、売上は198億5952万円(2014年3月期)である。
同社は2007年から全店長、本部の各部門担当者、社長、そして仕入先担当者が参加する販促提案‐検証結果発表会(名称:潜在需要発掘研究会)を毎月開催している。
参加する仕入れ先も年々増えており、現在は主要仕入れ先のほとんどの75社が参加している。研究会の開催時間は午前10時から午後4時までと長丁場。いい意味で大変な研究会である。
決して大規模とは言えない地方小売に、主要仕入れ先のほとんどが参加し、これだけエネルギーを注ぐ理由は何か。その一つは、他では得られない知識を獲得できるためである。
同社はID-POSデータとデータ分析のための手法を仕入先担当者と共有している。仕入先からの提案はすべて店舗で実験される。リピートデータなどの実験結果は、直ちに仕入先にフィードバックされる。サンキュードラッグ側にとっては、メーカーの技術やノウハウなど貴重な経営資源を得ることになる。
この事例は、CRM、ビッグデータ収集、オムニチャネルに取り組むことによって得られる顧客情報が、顧客管理以外の場面でも使われることを示唆する。
この場は、販促提案-検証発表の場でありながら、同時に社内の部門間コミュニケーションの場でもあり、顧客志向の組織文化をつくる場でもある。
このように絶えず新しい提案がなされ、部門横断的コミュニケーションが行われているためか、店内は顧客視点の施策で活気に溢れている。
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