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小宮路雅博(成城大学 経済学部教授)
「4A」とは、ジャグディッシュN.シェス(米エモリー大学ゴイズエタ・ビジネス・スクール)とラジェンドラS.シソディア(米ベントレー大学)の両教授が、その著書The 4A’s of Marketing(邦訳『4A・オブ・マーケティング』同文舘出版刊)において提唱したマーケティングの新しい枠組みであり、顧客が感じる4つの価値の視点に立って、マーケティングのあり方を大きく捉え直そうというものである。
4Aについては、アメリカ・マーケティング界の重鎮であるフィリップ・コトラー教授やデービッド A.アーカー教授を初めとして多くの研究者が、従来のマーケティング体系に対する意欲的なチャレンジと評価しており、4Pに替わる新しい枠組みとして機能するものとの期待を寄せている。
4Aに対する関心は、わが国においても急速に高まりつつあるところである。本稿では、4Aの考え方とその要素、関連する概念について、シェスとシソディアの主張に基づき、そのエッセンスを紹介する。
顧客が感じる4つの価値
4Aは、アクセプタビリティ(Acceptability)、アフォーダビリティ(Affordability)、アクセシビリティ(Accessibility)、アウェアネス(Awareness)の4つの価値要素から構成される。
具体的には、以下のような内容となっている(図1)。
□アクセプタビリティ
企業の提供する製品が全体として、どのくらいターゲット市場の顧客のニーズや期待と合致し、また、ニーズや期待を上回っているかをいう。
□アフォーダビリティ
ターゲット市場の顧客がどのくらい当該製品の価格に対して支払うことができ、かつ支払う意思があるかをいう。
□アクセシビリティ
顧客が当該製品をどのくらい容易に入手できるかをいう。
□アウェアネス
顧客が当該製品についてどのくらい知っており、購入や利用をしようと思っているかをいう。
これら4Aの各要素は、企業が従来、定番として用いてきたマーケティング・ミックスの4P(Product=製品、Price=価格、Place=流通チャネル、Promotion=プロモーション)のそれぞれを言い換えたもののように或いは思えるかもしれない。しかし、両者は全く異なるものである。
つまり、4Pのそれぞれは、企業から顧客に対する働きかけの「手段」であるのに対し、4Aのそれぞれは(4Pを始めとするさまざまな働きかけによって)達成ないし確保されるべき顧客の「状態」を示すものである。
4Aの枠組みの最大の特徴は、マーケティング上の全ての取り組みを、顧客にどう働きかけるかという手段(4P)からではなく、顧客の感じる価値がどれだけ達成されているかという状態(4A)から発想すべしとする点にある。
例えば、4Pの流通チャネル(Place)と4Aのアクセシビリティとを対比すると、流通チャネルなら「顧客のところにどうやって円滑に製品を流通させるか」というもっぱら企業視点での課題となるが、アクセシビリティなら「顧客が企業の製品に円滑にアクセスできるには」という顧客視点からの問題設定となるだろう。
マーケティングは、従来から顧客志向を標榜してきた、とされる。本当に標榜通りであるのならば、製品流通も企業視点(流通チャネル)ではなく顧客視点(アクセシビリティ)からまずは発想し、捉えられるべきである――。これが4Aの主張である。
なお、シェスとシソディアによれば、4Aは、もともとコカ・コーラ社が社内で用いてきた3A(アクセプタビリティ、アフォーダビリティ、アベイラビリティ)という枠組みから基本的な着想を得たものとされている。
シェスが教授を務めるエモリー大学は、伝統的にコカ・コーラ社と関係が深いことで知られており、ゴイズエタ・ビジネス・スクールもコカ・コーラ社のCEOであったロベルト・ゴイズエタから寄付を受け、その名を冠したものである。この関係もあり、コカ・コーラ社の3Aを基礎に4Aが産み出されてきたものと思われる。
顧客の4つの役割と4A
ここで、4Aの理論上の基盤をなしている顧客の4つの役割について説明しておこう。
シェスとシソディアは、顧客は市場取引において4つの異なる役割を果たしている、と主張している。
顧客が果たす4つの役割とは、シーカー(探索者)、バイヤー(購入者)、ペイヤー(支払者)、ユーザー(使用者)の4つをいう。つまり顧客は、製品についての情報を探索し(シーカー)、製品を購入代金や時間・労力を費やして購入し(バイヤー、ペイヤー)、製品を使用・利用ないし消費する(ユーザー)存在として捉えられている。
企業は、これら顧客の4つの役割に対応して、価値を高めねばならないが、シェスとシソディアは、その価値を4つのAに概念化したわけである(図2)。
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