「4A」とは、顧客が感じる4つの価値の視点に立って、マーケティングのあり方を大きく捉え直そうという考え方

4Aの2つの次元

4Aの各要素のそれぞれは、さらに2つの次元から構成される。2つの次元とは、それぞれ以下のようなものである(図3)。

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□アクセプタビリティ:機能的アクセプタビリティと心理的アクセプタビリティ
機能的アクセプタビリティは、製品の主要な特徴や性能、機能性などに関わるアクセプタビリティである。例えば、製品の持つ機能が顧客のニーズや期待と合致するとき、機能的アクセプタビリティは高まることになる。

心理的アクセプタビリティは、製品のブランド・イメージや社会的価値・情動的価値などに関わるアクセプタビリティである。例えば、製品ブランドについて顧客が好ましく感じれば、心理的アクセプタビリティは高まることになる。

□アフォーダビリティ:経済的アフォーダビリティと心理的アフォーダビリティ
経済的アフォーダビリティは、言わば「支払いの能力」である。例えば、顧客の収入が製品の購入に見合っているかどうか、つまり、支払えるかどうかである。

心理的アフォーダビリティは、「支払いの意思」である。価格に対する知覚価値、価格の妥当性の判断、他の選択肢との相対的な価格比較などに関わるアフォーダビリティである。

経済的アフォーダビリティが確保されていても、心理的アフォーダビリティから当該製品が購入されない(支払うことはできるけれども、支払おうとは思わない)、ということは日常的にも多々経験するだろう。

□アクセシビリティ:アベイラビリティとコンビニエンス
アベイラビリティは、製品がそもそも入手できる状態にあることをいう。需要に対する供給量、関連・付帯する製品・サービスも含めた店頭在庫の量などに関わるアクセシビリティである。

コンビニエンスは、製品を入手する際の簡便さを指す。つまり、製品の入手に要する時間や労力、入手できる場所や地理的制約の程度、適切なサイズの包装パッケージなどに関わるアクセシビリティである。

□アウェアネス:製品知識とブランド認知
製品知識は、当該の製品或いは製品カテゴリーについての顧客の興味や関与、知識の度合いなどに関わるアウェアネスである。

ブランド認知は、製品ブランドについての顧客の認知の度合いに関わるアウェアネスである。製品のブランド名が知られていないので、購入されないという場合も多いだろうが、製品のブランド名は良く知っているが、肝心の製品そのものについての知識がないために購入されることはない、といったことも生ずるだろう。

各要素の2つの次元について、シェスとシソディアは、従来のマーケティングは実は、心理的アクセプタビリティ、心理的アフォーダビリティ、コンビニエンス、ブランド認知を実現する活動にもっぱら重点を置いてきた、としている。

そのため、経済的アクセプタビリティ、経済的アフォーダビリティ、アベイラビリティ、製品知識の次元にもバランス良く目配りすることで、より大きな価値を実現できるようになる――彼らは、このように主張する。

また、シェスとシソディアは、相対的に富裕で成熟・飽和気味の先進国市場ではなく、新興国市場や途上国におけるBOP(Base of the Economic Pyramid)市場を考えたときには、経済的アクセプタビリティ、経済的アフォーダビリティ、アベイラビリティ、製品知識が特に需要となる、とも述べている。

確かに、BOPの観点に立てば、例えば、顧客の支払いの意思をどのように高めるかよりも、まず顧客はそもそもどうすれば支払うことができるようになるのか、と発想した方がより現実的なことも多いだろう。

アクセシビリティについても、購入の便利さ以前に、製品供給そのものの体制づくりが求められる場合もある。

4AとMarket Value Coverage

前述のように4Aは、達成されるべき顧客の「状態」を指し示す価値である。企業は4Aの各要素について高い水準を達成する必要がある。

シェスとシソディアは、4Aの各要素の水準を集約するMVC(Market Value Coverage:市場価値充足率)という尺度を提示している。MVCは、次のように計算される。

MVC=アクセプタビリティ×アフォーダビリティ×アクセシビリティ×アウェアネス

MVCでは、4Aの個々の要素は「0%~100%」のスコアで評価される(ターゲット市場の顧客にとって、アクセプタビリティは何%、アフォーダビリティは何%というように評価される)。

例えば、4Aの2つの要素で100%の評価でも、他の2つの要素が50%なら、MVCは25%となる(100%×100%×50%×50%)。

MVCは、4つの要素評価の積として計算されるので、要素のどれかを削除したり、ある要素を他の要素で代替したりすることはできない。また、1つの要素における重大な低評価を他の高評価で埋め合わせることもできない。

成功するためには、企業は4Aの全ての要素について良好な評価を得る必要がある。

【参考文献】
Jagdish N. Sheth and Rajendra S. Sisodia〔2012〕The 4A’s of Marketing-Creating Value for Customers,Companies and Society-, Routledge(訳書:小宮路雅博訳〔2014〕『4A・オブ・マーケティング―顧客、企業、社会のための新価値創造―』同文舘出版刊)

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