【前回のコラム】「成長は“自分にはできないことがある”への気付きから始まる」——マイクロウェーブ加藤社長に聞く」はこちら
このコラムでは、企業のトップに対して、人材育成について考えていることや実践していることを聞いていく。その中で、「マーケティング思考ができて、なおかつ実際に行動に移すことができる人材」を育成するにはどうすればいいのかを探っていきたい。
今回は、WEBサイトやECの改善からソーシャルメディアのリスク対策などのデジタル分野のソリューションを提供している、DNPデジタルコムの代表取締役社長 福田 祐一郎 氏に聞いた。
チームリーダーは、ビジョンを語ってメンバーを導くべき
——貴社がリーダーに対して“求めている力”とは、どのようなものでしょうか?
リーダーに必要な力とは、「ビジョンを語る力」だと思っています。リーダーは、そもそもチームをゴールに向かって導くのが役割ですから、チームが進んでいる方向や、目指すべきゴールについて話すのは当たり前。
それぞれの会社が自社の将来ビジョンを定めるにあたっては、必ず「世の中はこれからこう変わる」という客観的な将来洞察をしていると思います。そして、その洞察に基づいて「だから我々はこの場所を目指す」というストーリーがあるはず。ただ単に話すのではなく、会社の方針を踏まえつつ、ビジョンそのものの実現可能性を心の底から信じ、かつワクワクするようなストーリーとしてチームメンバーに語れるか。この力こそが大切だと思っています。
——ビジョンをストーリーとして語るためには、さらにどのようなことが必要になってくるのでしょうか?
ビジョンのストーリーテリングについては、教科書のようなものはないと思っています。そこで、「次世代のリーダー候補と一緒に仕事をする中で教える」ようにしています。当社は2014年末から基幹事業のビジョン再構築を行っているのですが、この一環として、EC分野をこれから引っ張っていくだろう次世代リーダー候補たちを30名程度選出し、彼らとともに「世の中が5年後、10年後、20年後にどうなっているか」という将来洞察を行いました。そして5~20年のスパンでにはECを中心とした小売流通がどう変化していくのかのアイデアをまとめ、『Future Commerce~来るべきECの将来』という書籍を作りました。この書籍は、500名ほどいる社員全員に配る目的で制作したのですが、この1冊の中に、この作業に参加したリーダー候補のアイデアがたくさん詰まっています。これらのアイデアをストーリーとしてどう伝えるのか、私も打ち合わせに参加して、彼らと意見交換を繰り返しながら共に作り上げました。
——貴社サイトにもビジョンについて掲げられていますが、この冊子はそれをさらに詳細にしたものでしょうか?
そうですね。ビジョンというと、概念的に書いてあることも多いのですが、概念だけではリーダーがチームメンバーに説明するのが難しいと思っています。具体的なゴールイメージに加えて、「ゴールに至るまでの道筋・ストーリー」と「なぜゴールをその場所に決めたのか」という背景情報がなければ、聞く側に共感してもらうのは難しく、自分自身もビジョンに確信を持つことはできないからです。今回、書籍を作ったことで、目指すべきビジョンとそこに至る背景、ストーリーが皆で共有され、向いている方向がそろってきたと感じています。