一方、世の中ゴトの概念化がうまくいかないと、「課題」とそれに応える「市場」の2つの歯車はかみ合わず、うまく回転していくことはできない。つまり、《正しいもの》が《いいもの》に変換されないといけないわけで、ここに、マーケティング・コミュニケーション的なアプローチが必要になる。食品機能性表示制度という難解な用語、さらに特定保健用食品(トクホ)があったり、栄養機能性食品があったり、そして消費者庁だけでなく厚生労働省や経済産業省や農林水産省がそれぞれの役割と責任において絡んだりと、複雑極まりない。
つまりイメージしづらく、わかりにくい世の中ゴトになっている。そこで生まれたのが、「EBN」という言葉だ。Evidence Based Nutrition(科学的根拠に基づいた栄養摂取、食事管理)を意味する。この概念に根ざす種々様々の志の集合体が「課題」となり、複雑極まりない世の中ゴトを一つの向きに求心力をもって包括していくことになる。
EBNという概念の普及啓発により、消費者に対しては、健康食材・素材・成分への関心・理解・行動を正すとともに、それらを開発する企業や団体、地方自治体に対しては、エビデンス構築とコミュニケーション開発を推進する向きに、世の中が動きはじめる。エビデンスという概念自体、日本ではそれほど長い歴史がある言葉ではない。もともとは医療の世界で、個人の経験則が上位であった医療を科学的手法によって体系化して、客観的かつ再現性の高い医療(特に治療法)として役立てようという世の中の動きに乗じて現れてきた考え方だ。
EBM(Evidence Based Medicine、科学的根拠に基づいた医療)が先にあり、それに続いてEBNの時代が訪れるというわけだ。治療医療から予防医療への転換は、このような概念的な世界でも明確な動きとなり、生まれ育っているのである。
もちろん、商品エビデンスを重視するあまり、消費者インサイトを軽視するようではいけない。そこで、「EBNは、おいしい!」をゴールに設定するようなコミュニケーションづくりが、この世の中づくりに参画し、成功を収めようとする企業や自治体に求められていくことになる。
※なぜ今、ヘルスケアマーケットに注目が集まるのか?(下)は明日掲載いたします。
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西根 英一氏
マッキャンヘルスケア ワールドワイドジャパン CKO(最高知識責任者)
健康・医療・美容のマーケティング戦略とコミュニケーション設計を専門とする。学術研究活動のほか、大学やビジネススクールでの教育機会多数。NPO防災のことば研究会副理事長、一般社団法人EBN推進委員会立案者兼委員、日本メディカルライター協会、日本医学ジャーナリスト協会の協会員他。厚生労働省「すこやか生活習慣国民運動」(健康日本21)の推進室室長等を歴任。
2015年3月12日(木)、3月13日(金)
4月より開始される機能性表示制度。これに伴い、変化を余儀なくされているヘルスケア市場において、旨みを得るには、何をすべきなのか。規制緩和、高齢者の増加などによって広がるヘルスケアの新市場の現状から、マーケティングにおいて押さえておくべきポイントを、各分野の第一線で活躍する講師より学びます。