BtoBtoCで広がるヘルスケアビジネスの情報発信
一般消費財の場合は、企業(B:Biz)から消費者(C:Consumer)へのBtoCコミュニケーションによって、おおよその広告ビジネスは成り立っている。しかし、ヘルスケア関連消費財の場合は、企業と消費者の間にもう一つのB「専門職」(医師・薬剤師に代表される医療従事者や、保健師・栄養士に代表される保健従事者)が介在し、B to B to Cコミュニケーションを主流に、この上流域ではBtoBコミュニケーション、下流域ではBtoCコミュニケーション、さらに一般消費財同様のBtoC(=DTC:Direct To Consumer)コミュニケーションの計4つのルートが存在し、ヘルスコミュニケーションは体系を成している。(図1)
つまり、商材が持つ情報だけでなく、専門職が有す健康・医療情報がこれら一連のコミュニケーションの中で複雑に交錯し、消費者行動を制御しているのだ。結果、ヘルスケア関連消費財の広告ビジネスには、商材のプロモーション(販売促進活動)と専門職のヘルスプロモーション(健康増進活動)が両立することになる。そのため、健康・医療情報を受け容れる素地となる《ヘルスリテラシー》を消費者に育成することが、ヘルスケアビジネスのもう一つの大きな柱として求められている。
それを実現するために、ヘルスケアビジネスでは「学術情報」「戦略PR」「広告プロモーション」の3つを、均衡を保ちながら実施することが望まれている。学術情報の情報発信は、他のビジネス群とは比べものにならないほど、ヘルスケアビジネスでは重要度が高く、これがないと、戦略PRも、広告プロモーションも展開できないといっても過言ではないだろう。
「学術情報」は、エビデンスをつくり、そのエビデンスを積み重ね、「戦略PR」は、話題をつくり、その話題を積み重ね、「広告プロモーション」は、メッセージをつくり、そのメッセージを積み重ねる。その総和の量と質で、商材の《評価価値》+《評判価値》+《購買価値》を創造し、ビジネスが勝利へと導かれる(図2)。
いまやヘルスケアビジネスは大企業だけのものではない。地方自治体も、地方の中小企業も、下町の食堂も、島に一軒のパン屋も、売り出し中のミュージシャンも、ヘルスケアビジネスを始めることができるのだ。
自治体のヘルスケアビジネスの可能性としては、例えばベッドタウンの市町村が「よく眠れる街」宣言をすれば、シティーセールスに役立つかもしれない。また、睡眠健康でビジネスする企業(寝具メーカーに限らず、機器メーカーや住宅メーカーなど)と共同で、住民の眠りをサポートしたり、一部の住民に参加してもらい、学術団体や医療機関の関与のもとに眠りをモニタリングしながらマネジメントしていく研究を実施したり…。それら学術情報は、自治体にとっても、企業にとっても、学術団体にとっても、医療機関にとっても、戦略PRとして活用でき、それぞれの社会的価値を存分に情報発信することができる。なおかつ、《共創社会》を地域に育むことにつながる。
地方の中小企業であろうとも、ヘルスケアビジネスの正夢を見ることができる…そんな時代になっているのである。
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西根 英一氏
マッキャンヘルスケア ワールドワイドジャパン CKO(最高知識責任者)
健康・医療・美容のマーケティング戦略とコミュニケーション設計を専門とする。学術研究活動のほか、大学やビジネススクールでの教育機会多数。NPO防災のことば研究会副理事長、一般社団法人EBN推進委員会立案者兼委員、日本メディカルライター協会、日本医学ジャーナリスト協会の協会員他。厚生労働省「すこやか生活習慣国民運動」(健康日本21)の推進室室長等を歴任。
2015年3月12日(木)、3月13日(金)
4月より開始される機能性表示制度。これに伴い、変化を余儀なくされているヘルスケア市場において、旨みを得るには、何をすべきなのか。規制緩和、高齢者の増加などによって広がるヘルスケアの新市場の現状から、マーケティングにおいて押さえておくべきポイントを、各分野の第一線で活躍する講師より学びます。