コピーライターに「才能」はいらない?
—よく「コピーライターには才能が必要」と言われます。みなさんはコピーライターにはどんな才能が必要で、どういう人が向いていると思いますか?
下東:基本、コピーライターって広告に携わる職業ですが、広告のターゲットは広い性質を持っているので、「ひとりよがりじゃない」のがコピーライターに一番大事な要素かと思います。「ひとりよがりじゃない」って、突き詰めると「人格可動域の広さ」のことだと思うのです。つまり、自分は自分でしかないけれど、20歳の男の子や、60代の老人や、5歳の子供など、色んな人格になってその「商品」をどう思うかというのを想像できる人間が、コピーライターに向いていると思います。
阿部:僕は、「好きであること」というのを意識しています。一つは「伝えることが好きであること」。コピーライターの仕事って、言葉を書いたり、コピーにすることによって、誰かの心を動かして、商品を買ってもらったり、好きになってもらったりすることだと思います。伝えることが好きじゃないと、自分が夜遅くまで仕事して、会いたい人にも会えない中で、心を削りながら書くことが苦しくなることって誰でも絶対あると思います。そういう時に、自分が「伝えることが好きである」ということを強く思っている人であれば乗りきれると思う。「どれだけ好きか試されている仕事」であると思います。
もう一つは、「対象を好きであること」。日頃、色んな商品を担当するわけですが、その時に自分がその商品やブランドを好きにならないと楽しくならないので、どこか一つでもいいところを探して、その商品を好きになるというのがすごく重要な要素だと思っています。
小藥:誤解を恐れずに言うと、僕は「ひとりよがり」っていうのも大事かなと思います。「コピーをたくさん書きなさい」って新人の頃はよく言われると思うんですけど、50個とか100個とか考えたとしても、それって深く考えるということでは意味はあると思うんですが、そこまで自慢することでもないと思います。
それよりも「この1案が本当にいいと思うからこれを世の中に出したい」、「これは絶対いいと思うからビジュアルにしたい」みたいな個人の意思とか思い入れがないと、伝わるものも伝わらないと思う。やっている相手も楽しくないと思うんですよね、気持ちがないと。「なんでこの案がいいのか」っていうのを当然説明しなくちゃいけませんし、自分がいいと思うものを相手も良いと思わないと価値がないということなわけですが、前提としては、「自分がいいと思うものにこだわりを持つ」って言うのが大事だと思います。「60点、70点のコピーがいっぱい」じゃなくて、「この1案!」っていう気概が意外と大事かなって思います。
—そもそも「コピーの才能」ってあるのでしょうか?
阿部:なりたいと思ったら、誰でもコピーライターになれると思うんです。でも、「伝えたい」とか「伝わって欲しい」といった懇請がすごく大事だと思います。生半可な気持ちではできない。ハードだし、思いつかなかったら苦しいし、でもそういう胸の内の思いが強くあるということが、才能ということなんじゃないかなって思います。
小藥:さっき下東さんが「自分は作家にはなれないと思った」という話をされていましたが、その感覚は自分にもあります。映画監督や漫画家や、自分が持っている才能なんてそんな方に比べたら本当にちっぽけだなと思うことばかりです。だから、才能というすごいものについてアドバイスする資格も無いんですけれど、真似ができないものという定義になるかなと思います。
下東:どうやら小説家は、才能がどうとかよりも、自分の中に「どうしてもこれを書きたい、表現したい」という衝動があるらしいのです。僕らコピーライターはそこまでそういう衝動が必要なわけでも、求められているわけでもない。基本的にはコピーはテクニックを積めば誰にでも書けるようになるので、特に才能も必要ないんじゃないかなと思います。「才能」って、抽象的で便利な言葉ですが、いまいち僕はよくわかんないなっていうのが正直なところですね。
※続篇につづく
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阿部 広太郎
電通 コピーライター
1986年生まれ。2008年に電通入社。人事を経て、コピーライターに。東京コピーライターズクラブ会員、30オトコを応援するプロジェクトチーム「THINK30」所属。企画し、コピーを書き、人に会い、繋ぎ、仕事をつくる。言葉を味方に、大きな問題を発見して解く。全部やる。 最近の仕事は、東進「いつやるか?今でしょ!」、コロワイド「太郎割」キャンペーン、ロックバンド「クリープハイプ」プロジェクト、ミスiDオーディション「すべての女の子はアイドルである。」、映画『ワンダフルワールドエンド』「さよなら、男ども。」、赤塚不二夫のフジオ・プロ「へんな子ちゃん」編集、ルーミート(カンガルー肉)を日本に広めるプロジェクトなど。連載「待っていても、はじまらない。」
小藥 元
meet & meet コピーライター
1983年1月1日生まれ。早大卒業後、05年博報堂入社。14年独立、meet&meet設立。東京コピーライターズクラブ会員。Gabaマンツーマン英会話「正解はひとつではない英会話を。」「重い腰をあげると、見晴らしがよくなりますよ。」、モスバーガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、マイケル・ジャクソン遺品展「星になっても、月を歩くだろう。」、フジテレビ×嵐「福嵐」、NATURAL BEAUTY BASIC「THINK BASIC.」「story&you」、ランドクルーザー「愛と厳しさが、強くさせる。」日産エルグランド「憧れるか、憧れられるか。」、コメダ珈琲「チョコラート」「ジェリコ」、ハワイ州観光局「自然は、地球を作ることをやめない。」他。著書「あなたがいるから、僕たちが生まれた。」
下東 史明
博報堂 コピーライター
1981年 京都市生まれ。2004年 東京大学法学部卒業。同年(株)博報堂入社。第四制作局、第一クリエイティブセンターを経て現在、第一クリエイティブ局。主な仕事にMINTIA/「俺は持ってる。」、一本満足バー/「まんまん満足。」、カルピスウォーター/「私は好きだから。」、GABA/「ハイ、そこでGABA。」、進研ゼミ小学講座/「実にてあつい!」、イエローハット/全キャンペーン「タイヤ、で選ぶならイエローハット」、日産自動車/販促キャンペーン「ノッテコニッサン」、DeNA/三国志ロワイヤル「みんなのサンロワ」「謎の一言」、DoClasse/「イナハナハハ」、NPO法人GreenBird/「ポイ捨てカッコ悪い」「ポイ捨て反対」、ロッテ爽/「シャキッと爽やか」「シャキキキーン」、味の素/「スープDELI」ネーミング、NTTグループ/環境スローガン「つなぐ。それは、ECO」、住友商事/採用スローガン「もがき楽しめ。」、JT/採用スローガン「まだJTにないものを。まだJTにいない人を。」、サントリー/胡麻麦茶「血圧川柳」キャンペーン 「高橋克実さん」キャンペーン、MUFGカード/「一生つきあえる」、アストラゼネカ/逆流性食道炎キャンペーン、映画「超高速参勤交代」/「このミッション、インポシブルです!」、ゼンリンデータコム/「この国に迷いがある限り。」ほか。受賞歴にTCC新人賞、TCC審査委員長賞、ヤングカンヌ日本代表、JR東日本ポスターグランプリ金賞、日経広告賞、One Show(Merit)、新聞広告朝日賞、アジア太平洋広告祭ブロンズ、交通広告グランプリ作品賞。著書に『あたまの地図帳』(朝日出版社)、『トレインイロ』(朝日出版社)明治大学非常勤講師、TCC賞審査員、宣伝会議賞審査員も務める。
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