「マーケッターとデータサイエンティストが組むと何が起きる?」——『売れるロジックの見つけ方』発売記念、共著者特別対談<第1回>

行動経済学により「人間が必ずしも合理的な行動をとらない」ということが証明されましたが、それはまさに購買活動にもあてはまるのです。
例えば、日々の必需品を買いに行っているはずのスーパーマーケットにおいてすら、レジを通る商品の8割を「計画外の購買商品」が占めているということなどは、正にその好例のひとつと言える。こうした生活者の「計画外の購買行動」について、『行動経済学』を引用し、解説を試みた例はこれまでにも数多くあったはずですが、計画外の購買行動を意図的に引き起こすにはどうしたらいいのか?について『行動経済学』と同じ立場に立ち、科学的に取り組もうという試みはほとんどされてこなかったように思う。
先月発売となった『売れるロジックの見つけ方』は、そんな計画外の購買行動を発生させる、直観的で合理的ではない購買意志決定までの心理変容・・・ロジックをLPOツールの力を借りることにより合理的に発見し、更にそれをLP以外のあらゆるメディアや販売の場で再現することにより、販売機会の拡大再生産を実現させることに挑んだ書籍だ。
本書籍発売を記念して、著者でありマーケッターである後藤一喜氏と、同じく著者かつデータサイエンティストの山本覚氏に「これからのマーケティング」について語ってもらった。

B2B2C 代表取締役・アカウントプランナー 後藤一喜氏(右)、データアーティスト 代表取締役社長 山本覚氏(左)

20年後にマーケッターはいるのだろうか?

後藤:本書の表紙に「マーケッターとデータサイエンティストが語る」と書いてありますけど、山本さんはマーケッターとデータサイエンティストがうまくやっていけると思いますか?
こんな本を出した後に私が言うのも変なのですが、もし本当にビッグデータが期待されるようなものになり、DMPやデータの流通が現実のものとなれば、山本さんのようなデータサイエンティストの仕事は溢れ、価値も増すはずですが、逆に私達マーケッターの方は全員が職を失ってしまうのでは?(笑)と、今から心配をしているのは、多分私だけではないと思うのですが。

山本:そんなことないですよ!

後藤:そもそもマーケッターとはどんな仕事をする人だと思いますか? データサイエンティストの山本さんが考えているマーケッターの定義とは。

山本:ものすごく簡単に言えば、顧客のニーズを考えて、商品の情報をどうやって伝えれば一番良く売れるかを考える人ですかね。

後藤:つまり、「ターゲットはどんな人で、どんなことを考えてるんだろうかを考え、良く売れるようにする係」みたいなものですよね。

山本:いろいろ考え方はあると思いますが、一般的にはそういう職種だと思われているのではないでしょうか。

後藤:かなり狭義にはなりますが、一般的にはそのようにとらえられていることが多いと私も思います。ところで、マーケティングの本家である米国において「Marketing is dead.(マーケティングは死んだ)」といわれ始めているということはご存知でしょうか、・・・その理由は、マーケティングが、何も実証できないからとされています。では、逆にこれまでのマーケッターが何を自分達の売り物にしてきたのかというと、実は「知識」と「経験」そしてこの二つにより培われた「勘」で、これらによって前述の課題である「どうしたら売れるのか?」に取り組んできたと言えます。

しかし、この「知識や経験に裏付けられた専門家の勘」による取組に対する信頼は、今日大きく揺らいでいて、本書にも出てきますが、山本さんが講演でおっしゃっていた“専門家の勘って怪しくないですか?”という疑問を、だれもが抱き始めているんです。

山本:なるほど。

後藤:例えば、世界70カ国に展開する広告会社サーチ&サーチのケビン・ロバーツCEOは、ハーバードやスタンフォードといった名門大学のビジネススクールで教えているマーケティングの考え方は、すでに過去のものだと言っています。それは商品戦略や価格戦略、他社との差別化などのような、「理屈」に基づいた手法の積み上げでは、もはやブランドロイヤリティを獲得することはできないからで。

価格や商品スペックといった「理屈」や「情報」に左右されない価値を追求することが必要だとも言っています。そしてこれまでの合理性や理性偏重型のマーケティングのあり方に警鐘を鳴らすと共に、マーケットターに対してはインスピレーションを誘発するもの、すなわち感性を重視すべきだとも言っています。・・・ところがこの感性というのは中々捉えどころが無い!(笑)

山本:なるほど。それで「経験と勘を頼りにアナログ的に取り組んでは来たものの、実証をすることのできないマーケッターを、生活者の行動や感性を数値化し、理屈ではなくデータで実証してしまうデータサイエンティストが打ち負かし、不要にしてしまうのでは」と危惧されるのですね。

後藤:端的に言うとそうなります。私はデータサイエンティストに、結果の解明までできるとは考えていないのですが、それでもデータにより実証すること自体はできてしまう訳で、企業が求めているのは、合理的な説明や解明よりも結果(売れるのか売れないのか?)の実証の方なので・・・だから「Marketing is dead.」などと言われてしまう。(笑)

次ページ 「データサイエンティストはビッグデータの錬金術師?」へ続く

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