データサイエンティストはビッグデータの錬金術師?
後藤:逆に、私達から見たデータサイエンティストのイメージをひと言で言うと「データの錬金術師」・・・一般人には良く分からない複雑なデータをガラガラ回して、その中から新しい価値や可能性を発見する人–なのですが・・・。
山本:我々からすると、そんなことは全くないんですけどね。基本的に経験に裏打ちされた人間の勘はほぼ正しいと思っています。我々は、その裏付けであったり、たくさんの選択肢の中からあたりをつけたりとか、人が考えることの側にいて支える仕事が中心であって、錬金術みたいにデータの海から何かを生み出す仕事ではないと思っています。
後藤:しかし、それはまだデータが出そろっていなかったり、相互利用ができないからで、それらが解決され、環境が整えば錬金術は現実のものになるのでは?
山本:データサイエンティストにできることにはかなり制限があるんです。システムが常に万能で、魔法みたいなことができるわけではありません。例えば、データマイニング技術の中で今のところ最も予測精度が高いのはニューラルネットワーク(人間の脳を模倣して作っている技術)なんです。ということは、最初の時点ですでにシステムよりも人間のほうが性能が高いということになりませんか?
後藤:でも、例えば携帯の予測変換なんか最近すごいですよね。先日、50代の女性が携帯で「さら」と打ちこんだ途端、予測変換で「サラ・ジェシカパーカー」が出てきたといって驚いていましたが、本人から「サラ・ジェシカパーカー」など一度も検索したことが無いと聞いて、私も驚いてしまいました。
つまり、ベイズ推計?により50代の女性と彼女たちが支持する『セックス・アンド・ザ・シティ』が関連付けられた結果と考えられますが、これは、リアルの店舗で言うと、店舗に入った途端に店員から「あなたが探しているのはこれでしょ?」って商品を手渡され、レジに連れて行かれるようなものですから・・・統計分析術恐るべし!と、一瞬背筋を寒くし、じゃあ私達のような勘ビューター頼りの伝統的なマーケッターは一体何をしたらいいんだろうか?と頭を抱え込んでしまったといわけです。
山本:確かにそういった複数の選択肢から「何がベストなのか選び取る」という作業にはデータ分析は強いと思います。例えば、アマゾンのように「この人には次はこの本を勧めたら売れる確率が高い」というのは選び取る作業なので可能です。ただ、「次はどんな本が売れそうなのか」といったことは、基本的にデータ分析からは出てきません。そこを考えるような「生み出す作業」に関しては、データサイエンティストは領域を侵していない。むしろ、そこにこそマーケッターの強みが生きると思います。
後藤:次なる価値が何かを、生活者のインサイトを基にして考え・提示することがマーケッターに求められるということですね。となると、前述のような狭義のマーケッターではなく、本来の・・・「販売努力の必要を無くす」というそもそものマーケッター役割が求められるようになるということで、前述のケビン・ロバーツ氏の「マーケテターはインスピレーションを誘発するもの、すなわち感性を重視すべきだ!」という主張とも繋がってきますね。
そしてそこから先の検証部分、あるいてはフィードバック部分をデータサイエンティストと一緒に行っていくことができれば、提案やその先の施策の精度がより高められる。つまりそういう組み方になりますね。