自分たちが持っているダサさを認識する
澤本:川田さんは、ご自身で色々な企画を考えられていますが、広告の依頼はどう来るんですか?
川田:前にアイドルがARで出てくる映像をつくったときは、事務所から直接頼まれました。元になるネタ(「カンジブルコンピューティング」=「朝」と「娘」の漢字にスマホをかざすとモーニング娘。が浮かび上がるなど)があって、テレビで無許可で披露していたら、事務所の人が乗り込んできて。「こうやって芸能界では干されるんだ…」とびくびくしていたら、「今度新しい子たちがデビューするんで全部お任せしたい」と。
僕らがライゾマさんなどと違うのは、顔出しをしていることです。技術者が顔を出すのは本当は邪魔なんです。でも、人は表情のないものに感情移入できませんから、特に新しい技術には顔をつけないとダメなんです。
アイドルのCMなのに僕らがアイドルより大きく出ていて、ファンに刺されるかと思ったけど、逆に「その節はお世話になりました」って皆さん好意的で。顔を出しても悪いことはないなと。そういう活動の中で、「この人たちはアイデアがあるから頼んじゃおう!」みたいなノリで話が来ることが多くなってます。
澤本:元々、「AR三兄弟」をつくったきっかけは何だったんですか?
川田:ARは僕がやりたいことに一番近かったんです。でもARって誰も知らないので、今さらあえて「三兄弟」ってつけて、男が3人並んで同じ格好をしたら面白いかなと思って。昔は真面目に記者会見でプレゼンテーションしていたこともあったんですけど、すごい技術なのに、記者がすごく退屈そうで。何か申し訳ない気持ちになっちゃって。
それで、お笑いっぽくしたら、みんな食い入るように見てくれるんですよね。その質量変換がヤバいと思って。三兄弟をやり出してから暇だったことがないです。これがなければ危ないところでしたね。
澤本:AR三兄弟の後に続く人たちも出てきていますか。
川田:全然まねされないです。それは僕らに根本的なダサさがあるからだと思うんです。何でプログラマーなのに、人前でビームを出してるんだと、たぶん思われている。僕はさっき、澤本さんのお話を聞いてグッときたんです。
本(『電通デザイントーク Vol.2』)の冒頭で、「『広告だー!』と主張しているような広告はダサい」と言ってしまったんですけど、広告ってきらびやかなものだから、広告の制作者であるだけでカッコいいという感じが一部ではある。
でもそれは誤解で、アートを主張してるような広告も、とてもダサいと思う。先ほど澤本さんは「広告は邪魔なもの」とおっしゃいましたけど、そういう感覚がないと拡張するときに危ないんじゃないか。広告に限らず、テレビもラジオも。澤本さんはその感覚を持っているんだと思います。
澤本:自分の美的意識に合わせるのが正解じゃないから、毎回模索しています。ここまで言うとカッコ悪いだろうとか、少しあざとい、おじさんっぽいと思っても、そういうセリフの方が残るんですよね。
自分がすごくいいと思う時って意外とスルーされてしまうので、それよりも心に残るものをつくろうという気持ちが強いです。