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阿部 広太郎(電通 コピーライター)
いま僕がこうして文章を書き、
あなたに読んでもらえているのは、
「広太郎」という名前のおかげです。
2012年8月。
Facebookのタイムライン。
友達がいいね!を押したニュースが、
勢いよく僕の目に飛び込んできた。
「甘太郎は日本の太郎さんを応援しています」
え。なんだ。じっとモニターを見つめた。
名前に「太郎」と付く人は割引しますという、
居酒屋「甘太郎」の割引ニュースだった。
何度も読み返して、高揚している自分に気づく。
もう僕の心は躍りっぱなしだった。
世界で最も耳に心地よく響くのは自分の名前である。
だれもが自分の名前を呼ばれると嬉しく感じるそうだ。
ふだん特に意識することもない「広太郎」という名前を、
認めてもらえたような、励ましてもらえたような。
ふふふと心の中で笑って、とてもうれしい気持ちになった。
このニュースを広めたいと思った。
この純粋にうれしい気持ちを広めたい。
それは「いいね!」とか「シェア」とか、
限られた範囲の話ではなくて、
僕のタイムラインを飛びこえて、
もっともっと多くの人たちに届けたい。
血液がふつふつと熱くなってくるような感覚。
太郎の広告をできるのは自分しかいない。
勝手に運命を感じた僕は、
迷うことなくすぐさまコピーを書きはじめた。
「甘太郎は、太郎に甘い。太郎割」を一行目に、
わくわくしながらつぎつぎと書きはじめた。
友人のデザイナーと仕事終わりに夜な夜な集合。
わっと驚くたくらみを秘密基地で考えるように、
太郎割のグラフィックの企画を詰めていく。
もちろん僕には甘太郎にツテなんてない。
見てもらえるかどうかの保証だってない。
それでも。いやそれでも。いてもたってもいられなくて、
自分が感じたありったけの気持ちをぎゅっとつめこんだ、
まるでラブレターのような企画書を1週間で書き上げた。
そして送った。Facebookのメッセージで。甘太郎のアカウントに。
2日後に返信が来た時は、手が震えた。
自分の手で送っているのに、嘘かと思った。
「愛あふれる企画書ありがとうございます」
あぁ良かった、気持ちをこめれば届くんだ。
いつだって、いい返事ほどシンプル。
「甘太郎の店頭でポスター掲出しましょう」
とてもありがたい話で落ち着きそうだった。
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