安全神話崩壊 日本人が初めてテロのターゲットに
この1カ月で、日本に大きな影響を及ぼす2つのニュースが確認された。一つは、大きな衝撃と悲しみを伴った日本人2人のイスラム国拉致・拘束・殺害という事実であり、もう一つは、イスラム国などのスンニ派の武装組織に参加した外国人戦闘員が2万人を超えたというロンドン大学研究センターの発表である。
安倍政権の人道支援の結果が、皮肉にもシリアやイラクで展開する武装勢力やイスラム国の日本人に対するテロや不当勾留、拉致・拘束などのリスクを増大させてしまった。人道支援そのものやテロへの断固たる対応は、世界の先進国の一つとして発信すべき正道であるが、無差別攻撃をいとわないテロリスト達からは、日本の外交政策などの積極的発表が、彼らの意に添わないものと認識させてしまったのも事実である。
安全保障政策で大きな転換を迎えようとする安倍政権にとって、今年は「集団的自衛権」の関連法が国会で審議・具体化され、その運用初年度と位置づけられているだけに、国民ひとり一人の生命・身体に関わるリスクの増大に改めて身が引き締まる思いであったろう。
一方、ロンドン大学研究センターによれば、イスラム国などの武装組織への外国人の流入は昨年下半期から急劇に増え続け、近隣の中東諸国からは1万人以上、欧米諸国からも4000人近くが確認されているとしている。また、2万人という数字に東南アジアからの流入は含まれておらず、実数はさらに増えるものと結論づけている。
中国政府は、具体的な人数は示さないものの、かなりの人数がイスラム国の戦闘員として参加し、訓練後に再び中国へ戻り、一部がテロを誘導又は実行していると、イスラム国の動きに大きな関心と懸念を示している。
ロンドン大学研究センターの調査でも、既に10%~30%程度の外国人戦闘員が自国へ戻り、テロの準備を行っている可能性があると、その脅威について警鐘を鳴らしている。
もう一つの脅威は、この流入が90カ国以上の世界規模で発生していること、これまでの歴史で武装勢力に参加した外国人戦闘員数の規模としては最大であることである。
テロの脅威の一つは、彼らの支配地域において、拉致・拘束や不当勾留などを通じて高額な身代金や拘束中の同胞の釈放などを求めることが一般的であったが、もう一つの特徴は、訓練した戦闘員を自国へ戻し、自由なタイミングで自爆テロなどを起こして、彼らの脅威を敵対国の身近なところで現実のものとすることである。
さらに、イスラム系のテロリスト達のテロの特徴は、組織的な行動とは別に個別に世界中に広がったセル型のテロリスト達がテロを実行することにある。テロ専門家が彼らのことを「ロンリーウルフ」と呼んでいる証左でもある。彼らにとって、知識と原材料、機会があれば世界のどこでもテロが起こせるところに脅威がある。
彼らが、ソーシャルメディアを通じて世界中の人々にリクルーティング活動を行っていることや賛同者と連絡を取り合っている事実も確認されており、ソーシャルネットワークの躍進がテロ活動や情宣活動を容易にしている側面もある。