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海賊の旗を掲げたジョブズ
組織に関する考え方については、さまざまな議論があります。
有名なものはまず規模についてです。
軍隊の組織は、少人数のグループ単位から始まり、下士官一人が命令できる人数は150人を超えないようになっています。お互いの顔と名前が一致して、協業できる規模というのは150人が限界というのは、直観的によく理解できます。
また、軍隊組織のルールは命令系統が常にひとつのカスケード式で、上官の指示を忠実に実行することが求められます。そのような組織は役割分担も階級も明確なので仮に上官がいなくなっても、階級に基づいて自動的にリーダーシップが移行するなど、組織運営もルール化されているところが特徴です。
軍隊をベースにした組織スタイルは、いまやまったく流行りませんが、建設業界や製鉄などの重工業の現場では当たり前です。全体が連携して巨大なアウトプットを生み出す産業やビジネスは、規律が重要になりますので、このような軍隊風の組織になりやすいのです。さらに小さなミスが大きな事故につながりやすいため、個人の自由度や創造性というものは二の次といったところです。
軍隊=アーミー、それも海軍=ネイヴィーがキライ、と公言してはばからなかったのがスティーブ・ジョブズでした。彼は規律を重んじるよりは、創造性やリスクを取ることの勇気をアップルの企業文化として奨励して、社内でも海賊の旗を掲げていたのは有名な話です。
海賊といえば企業組織とは正反対のように聞こえます。起業が当たり前になった現在、テクノロジー業界などのスタートアップではこちらが普通です。「Eating the Big Fish」や「Pirate Inside」のようなアダム・モーガンの書籍を読めば、そのような組織文化を重視する企業はITに限らず、イノベーションを起こしやすく成長していることがよく分かります。
しかしながら、海賊を掲げるスタートアップ企業も、さきほどの組織規模の点は軍隊と同じ論理が取られ、少人数のグループを基礎とした組織運営が基礎になっています。ただし150人はかなりの大きさなので、最少単位である、軍隊で言えば小隊サイズの5~6人がベースになっているようです。アマゾンのジェフ・ベゾスならばピザ2枚分のチームが適切と言いそうなところですが。
海賊でもサイズのみならずワークスタイルや組織文化が鍵です。
自由で創造的な海賊であったとしても、やはり明確な役割分担や組織ルールを持っているように見えます。軍隊では個人レベルの資質は階級によって決められていますが、海賊では得意分野を中心とした専門性によって、その自由度や創造性をグループで発揮できるようにするのが特長のようです。少人数のエキスパートが連携して素早くプロトタイプを生み出し、テストを重ねて改善し、大企業=海軍が追いつかないスピードで成長し、潜在市場を制覇していく姿は、たしかに海賊ならではという感じです。
自分がニューバランスのマーケティング組織のなかで目指してきたのは、この「海賊型」です。エージェンシーなども含むパートナー企業と一緒になって専門性を高めるのと同時に、自由で創造的な働き方ができるように推進してきました。エージェンシーと垣根を越えたパートナーシップを築くために定期的にワークショップを開催したりしています。