食事のあとは、すてきなティータイム
そんな分科会のあとに大広間で食事。メニューは毎回同じで肉以外の素材で膨らませた歯ごたえのないハンバーグと通称輪ゴムと呼ばれた歯ごたえのあるスパゲティをみんなで食べた。そのあとたまに卓球場の奥でアーティストによるプロモーションライブが行われ、その日の夜は静寂の森の中に場違いな喧噪がさぞかし響き渡っていたことだろうと思う。それが終わると各自部屋に戻るのだがここからが本番。ビールを片手に、お店の在り方について、ああだとこうだと自然発生的に話し合いが起こりだす。風貌こそ個性的な人が多かったのだが、見た目とは裏腹にみんな真面目で、お店づくりに対する情熱は驚くほど高かった。これは、ヴィジョンに共感して薄給に耐えながら働いてきた叩き上げであるということと、もうひとつは、ヴィレッジヴァンガードならではの権限移譲の在り方がそうさせていたのだと思う。
ヴィレヴァンの仕入れ~自分で仕入れて、自分で売る
ヴィレッジヴァンガードの仕入れは非常に特徴的だ。なんと本部バイヤーがいなかったのだ。各店の店長とアルバイトスタッフが、全商品、自分で仕入れて自分で売る。権限移譲100%なのだ。まるで、個人商店の集合体のような組織で、店長は一経営者としての感覚を持ち、店を切り盛りしなくてはならない。もしかしたら他社と差異化される本質はここにあるのかもしれない。特に私は店長をしていた頃、極端なまでにこの仕入れの特異性を利用した。
アルバイトスタッフもある程度慣れてくると、接客や品出しなどもスムースにできるようになってくる。その頃を見計らって仕入れの権限を徐々に渡していく。中には自分で考えるより指示をもらった方が…みたいなことを言ってくるスタッフもいたが「じゃあいっぱい成長できるし、お前よかったなあ」と笑って切り返してあげた。
アルバイトであろうとも現状維持に居心地を感じられるようになったらおしまいだ。まず、若いスタッフたちの大事な時期に淡々と仕事させることは良心が許さなかった。どんな形であれ達成感を味わってもらってその後の人生の何かに活かして欲しかった。また、そんな意識で仕事をしていたら個人としても成長できず、ひいては個人の集合体である店舗の成長は止まり魅力を失ってしまうはずだと考えていた。
だいじょうぶ、無理なくらいがちょうどいい
書籍全般を店長である私が担当していたときだ。ちょうど経験もある程度積んできたスタッフがいたので、朝、本の品出しを手伝ってもらっているときに声をかけた。「おまえ、本って読む?」「いや、全然読まないんです」「へぇ。そうなんだ」「マンガは読みますけど本は苦手で」「本ってどんなやつが苦手なの?」「小説なんてほとんど読まないんで全くわかりません」「そうなんだ。じゃあ、文芸担当ね」「無理ですって。全くわからないんですから」「だいじょうぶ、無理なくらいがちょうどいいの」「担当もらえるのは嬉しいんですけど、できるかなあ」「だいじょうぶ、できるから。もちろん投げっぱなしにするつもりもないし」だいたい、こんな調子で仕入れ担当を振り分けていった。