企画の軸を守りつつ表現でぶっとぶ!を意識
——佐藤さんも、当初はディレクターに志望していたわけではなかったというお話もうかがっていますが。
佐藤:就職する前はCMプランナーのほうに興味を持っていて、面白いCMを企画したりする仕事をしたいなと思っていました。演出という仕事が何かを全く知らなかったので、就職活動の面接で「僕プランナーがやりたいから企画しかしませんよ」って言ったくらいで(笑)。それが、現場で演出をするようになるうち、興味が逆転したんです。
日清カレーメシCM /カレーメシ登場 篇 30秒
佐藤:オリエンの時には、「カレーメシくん」というキャラクターが商品説明をするというシンプルな内容でした。そうした中で、クライアントから「ターゲットは若者なので大人にはわからないような世界観で」という依頼を受け、狂った演出を選択しました。ただ、新商品なので商品名とどんな商品なのかを覚えてもらう必要があったので、映像で飛ばしていても商品がど真ん中にあるようにし、カレーメシという名前をしっかり覚えてもらう構造にしています。また、カレーメシというネーミングなのでCM全体でドメスティックな印象を残すようにしています。軸を守りつつ表現でひたすらぶっとぶ、ということを意識しました。
演出しない演出、を意識した作品もあります。ローラさんと山下真司さんが登場するソニー ブルーレイのCMシリーズ(ローラ・マイ・ラブ篇|俺とローラとソニーのブルーレイ)です。ちょうどこの頃ローラさんがテレビでブレイクしていたのですが、CMでは与えられたセリフをしゃべりだした途端につまらなくなっている印象がありました。そこで今回のCMではローラさんには台詞をいっさい与えず、好きなように喋ってもらうことにし、スタジオ入りの映像からライブで撮っています。商品として伝えたいことは山下さんにお願いして、ローラさんには自由に話してもらう。これも商品説明という軸は守った上で、表現を飛ばすことを意識した例ですね。
オンラインビデオは「見てもらえない」前提でつくることが重要
——お2人は、普段どんなことを心がけて映像を企画・演出されていますか。
太田:オンラインビデオは、いわば誰の目にも触れられずにYoutubeにポトッと落とされるものです。オンエアをされないものがほとんどなので、作った映像は「見てもらえないもの」だと考え、どうやったら見てもらえるか、どこで知ってもらえるのか、予想していくことが一番大切だと思っています。その上で、「どうツイートしてもらうか」「どう記事になるか」を常に考えるようにしています。アウディの場合は、「あの桶欲しい!」とツイートしてもらうにはどう演出しようか、と考えていました。テレビCMだと、意図をよりよく伝えることが重視されると思いますが、そこがWebとの違いだと思います。
佐藤:私はCMの演出がメインですが、太田さんと同じく「誰も見ないもの」だという前提で考えます。他のCMに埋もれてしまわないようどう目立つか、常に意識しています。視聴者は番組を見たいわけであって、好んでCMを見たいと思っている人はいませんよね。見てない人を振り向かせるには彼らにとって初めて出会う何かが必要です。こんな役者の人CMで出たことないよねとか、こんな音楽聴いたことないねとか、こんな変な編集ないねとか、多少荒削りでも、行き過ぎているくらいの表現の方が人を振り向かせるきっかけをつくることができる。僕の場合は意図的にそうした要素を入れるようにしています。
太田:ユーザーにシェアされるため時に面白さを追求するオンラインビデオも、あくまで広告なので、クライアントの商品に着地することを前提に制作されます。しかし商品に着地せず「とにかく面白い」というムービーも、長期的に見てクライアントのブランディングに繋がるのならばアリなのではないか。そう思うこともあり、そのジレンマに悩むこともあります。
佐藤:CMは振り返らせるためのクリエイティブが重要ですが、オンラインビデオは長尺になる分、飽きさせない作りを意識する必要があるとも感じています。例えば話が進むにつれオチを想像してユーザーに期待してもらえるような、スキップされない・消されないストーリー展開を意識しています。
——ベストな尺はどのくらいだと感じられていますか。
太田:色々な説がありますが、全体の尺はあまり関係ないかと思います。まずは面白そうなところだけつまんで観ていって、面白そうであれば最初から最後まで観るという見方もありますから。ですから、そういうシチュエーションでも見やすくするにはどうすればいいか、考えながら作っていたりします。