ぼくは、「ギルガメ」を録画して、近所の裕福な友人に渡していた。
友人宅には、ビデオデッキが2基ある。
コアな一瞬だけをダビングし編集する、所謂「マイベスト盤」を作っていたのだ。
編集といっても、タイミングよくダビングされる側の録画ボタンを押すだけである。
この瞬間、友人の指先の反応速度は、テレビのドロップフレームである1/29.97秒をゆうに超えていた。
1フレームでも遅れると、イジリー岡田の顔面がインサートされてしまうからだ。
あの時代にFinalCutProがあったら、どんな名編集が生まれていたことか。
ぼくは、友人のマイベストをさらに複製した。
というか、クラスじゅうほとんどの男子生徒が持っていた。
マイベストは「リング」の呪いのビデオばりの伝播力を持った。アワベストである。
他の友人からも「たまたま見た『吉原炎上』という映画がすごいので持ち寄る」「『たんぽぽ』という映画で、生卵を用いたウルトラエロティックシーンがあったので撮った」
などのタレコミ情報が寄せられた。
まさに集合知。
ぼくは、いちど金曜ロードショーで放映していた「2001年宇宙の旅」をいったん、家族にわかるように堂々と録画し、「2001年宇宙の旅」とラベリングしておきつつ、ビデオテープのツメを折った。ツメを折ると、再度録画することが不可能になる。そして、そのビデオテープのツメ部分にセロテープを貼り、再度ダビング可能にし、そこにマイベストをダビングしたのである。
さらに、万が一親父が気まぐれを起こし、
「よーしパパ、今日はSFノスタルジーな気分で、2001年宇宙の旅観ちゃうもんね……うわあああ!!」という不測の事態を起こさないとも限らない。そこで、テープをビデオデッキとステレオの裏側に隠した。積まれたビデオテープ群から、自然に裏側に落ちた格好になる。
たとえ誰かが、掃除のときにたまたまこのテープを見かけたとしても、高確率で
「なんだ2001年宇宙の旅か」と、ビデオ棚に戻すだろう。即座にあの長編映画を見始める豪の者は、中村家にはいない。
すぐさま、そのテープをぼくが処分すればいいだけだ。
ちなみに、マイベストのせいで、ぼくは未だに本物の「2001年宇宙の旅」を観ていない。
ごめんキューブリック。
また、中学時代の卒業文集にある集合写真を見ながら、クラスの全女子と、あくまで自然な形で告白をされてエッチをするシチュエーションの台本を書いた。全員分だ。
どう考えてもぼくと一切接点のないHさん、親友とつきあっているKさん、無理めだと思われるYちゃんなど、放課後のクラスや体育館裏などシチュエーション別に分かれている。
途中までやると、もはや意地である。
「このド変態」とお感じの諸兄もいらっしゃると思うが、
これ別に普通のことです。
98%ですから。