エロ本の隠し場所、と、失われゆく表現の間

こういう話って、枚挙に暇がないんですね。
ぼくらの世代って。

モテたいがために、ヘタなバンドを組んで、ヘタすぎて学年じゅうに笑われるとか、ブランドを買う金がないので、カバンに「ヘルムートラング」と油性マッキーで書いてしまうとか、基本モテとエロを中心とした、あやまちと妄想の宝庫であった。

そして、こういった「不便をアイデアで補う」鍛錬が、関係ないところから発想を持ってくる、クリエイティブに必要な発想と直結しているんじゃないかと思う。

ところが、今の若い世代って、あっという間にエロの目的にありつけるから、インスタントに目的を達成できすぎちゃうんじゃないかと思うんですよ。

たとえば、「dmm」という3文字を検索窓に入力するだけで、2クリックほどで女体の裸体がアレでアレしている世界が広がるわけです。

ああいうものを小中学生が見るには、20年前には、とんでもないスニーキング・ミッションをクリアする必要があったんです。

妄想も試練も何もなくミッションコンプリートし、「賢者モード」に入る。
もはや、セックスすら面倒臭い。dmmでいいじゃないかと。

現代の若者が「さとり世代」と言われるのも納得が行く。

いっぽうで、クラスの好きな人も嫌いな人も、常にLINEグループでつながっている。MixChannelで、自分と同い年のカップルがラブラブで「あったかいんだからぁ」をやってみた動画とかどうしても目に入ってくるわけです。
「殴りに行きたい」とか思わずに、「ま、そういうやつもいるよね」と悟らなきゃ、やっていけないわけです。現代においては、コミュ力が何よりも大事。

「今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか」と言った先輩も、もういない。

「昔はよかった」という話ではない。

若者にとって、もはやぼくらの世代は、
「異常な行為」とか「単なるバカ」なのではなのではないだろうか?

学生や若者向けのワークショップに参加すると、たいがい
「最近の若者は頭はよいが、ぶっとんだアイデアを出さない。嘆かわしい」
という話になる。

が。

現代に、ぶっとんだアイデアなんて、果たしてあるのか?

ぼくらの表現の幅は、どんどん知らないうちに狭められている。

たとえば、連呼。

往年の大ヒットCMのいちジャンルに「連呼系」がある。「湖池屋スコーン」「モルツ〜うまいんだな、これがっ」など、佐藤雅彦先生などに代表される。
これなんと、ほとんど現代ではオンエアできない。

「え、なんで?」と思いのかたもいるだろう。

テンポのいい、小気味良いリズムで商品名が連呼されると、子どもがマネし、大人もマネし、結果スコーンが売れてしまう。人心を魅了する傀儡の技が強力すぎて、ヒット作品ほどクレームのリスクも増える。自主規制のバイアスがかかり、放送基準第123条にある「表現手段として社名、商品名、キャッチフレーズなど特定の商品情報の繰り返し、ならびに同じコマーシャルの反復などは避ける」が保守的な方向に動いたせいだ。

面倒くさいものに規制するほうはラクでいい。担当者のリスクが軽減される。

そのツケがまわってきているのが、現代のテレビだ。

過去のバラエティ番組をYouTube見ると、どう考えてもほとんどの企画は現代では放送できそうにない。築地の八百屋の野菜をすべて破壊したり、銭湯に相撲取りを大挙させてお湯を抜く、など。

こういった表現の規制は、基本、いちど規制されると元には戻らない

そして恐ろしいのは、規制された理由もわからず、静かに文化から抜け落ちる。
「なかったことになってしまう」のだ。

「できること発」で視聴率が取れる方法を最適化させた結果、バラエティ番組はヒナ壇芸人フォーマットばかりになった

規制をはじめた担当者は、本当に罪深いと自覚してほしい。

大事なのは、この規制だらけになってしまった表現の世界から、自己洗脳に陥らず、アイデアをシュリンクさせずにどう生きるか、ということだ。

「つまらなくなって悲しい」と懐古主義に浸っていても何も始まらない。

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中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)
中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

中村 洋基(PARTY クリエイティブディレクター)

1979年生まれ。電通に入社後、インタラクティブキャンペーンを手がけるテクニカルディレクターとして活躍後、2011年、4人のメンバーとともにPARTYを設立。最近の代表作に、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」、トヨタ「TOYOTOWN」トヨタのコンセプトカー「FV2」、ソニーのインタラクティブテレビ番組「MAKE TV」などがある。国内外200以上の広告賞の受賞歴があり、審査員歴も多数。「Webデザインの『プロだから考えること』」(共著) 上梓。

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