“バカ”と“くだらない”は最高の褒め言葉(ゲスト:馬場康夫さん)

他人と違うところより、同じところを本気で考える

澤本:今の話にもありましたが、馬場さんは昔、広告業界にいらしたんですよ。

馬場:はい。日立製作所の宣伝部にキッカリ10年勤めていました。ですから、ちゃんと広告の教育は受けているんですよね、そこそこには。今とはとても理屈が違いますけど。

権八:その頃、独立してホイチョイをつくろうというきっかけは?

馬場:映画です。『私をスキーに連れてって』という映画を撮らせてください、と最初は電通さんに持っていって断られて、その後、フジテレビさんが受けてくれて。映画を撮ることになったとき、会社を辞めないで映画を撮れないかという相談はしていました。でも、その前から結構会社に半分行かなかったりということがあったりしてね。特に、本が売れはじめてからは結構ひどい出勤状況だったので、「もうオマエ辞めろよ」という感じでしたね。

権八:そのときは宣伝部の仕事をしながら、夜に脚本を書いたり?

馬場:そうです。1981年にデビューして、会社を辞めたのは1987年。会社に入ってから4年目でマンガの原作者としてデビューして、1983年に『見栄講座』という本がめちゃめちゃ売れたんですよ。ベストセラーになって、その後も10万部、20万部の本を出していたので “売れる作家”状態で日立製作所の宣伝部にいた時代が4年間ありました。最後の2年はボロボロでしたけど、最初の2年はちゃんと二股かけていたんですよ。

一同:ちゃんとフタマタ笑。

馬場:会社つくって、ホイチョイに行って、日立に行って、夜またホイチョイに行ってと。ほとんど寝ていない状態でしたね。毎日、睡眠4時間ぐらいの感じで。

澤本:「会社の先輩の言葉がすごく残ってる」ってぼくに教えてくれたじゃないですか?

馬場:一番お世話になった人ですね。宣伝部に配属されてしばらくしてから、ある日、会議室でその人と2人きりになって、突然、「オマエ、自分は他人(ひと)と違っていると思ってんだろ?」と言われたんですよ。ぼくは当然、“自分は違う”と思っていましたよ。たとえば、みんなが読まないミステリーやSF、アイザック・アシモフとかを読んでいたし、みんながロックに熱狂していたときにぼくはジャズだったり、ボサノバだったりしたので。「おれは個性的で他人と違う」ということは粋がって思っていましたね。

澤本:そこは自覚していたと。

馬場:ぼくのオデコに書いてあったんでしょうね。「おれは他人と違うぜ!」って。で、「はい、思っています」と答えた。ぼくは“他人と違っていることはよいことだ”と思っていたから。そしたら、その人から「広告業界で長くやっていきたいんだったら、自分が他人と何が違うかじゃなくて、これからは他人と何が同じかを考えて生きろ」と言われたんですよ。

中村:他人と何が同じかを考える…。

馬場:入社して間もなくの23歳ぐらいだったから、そのときは言われてもまだピンとこなかった。「他人と同じなんて日本人の一番ダメなところじゃん!」と思っていたから。「個性が全てだよ」と思っていた。でも、今にして思えばこんなに役に立った言葉はない。

権八:次第に理解していった、と。

馬場:だから、ぼくは下のヤツみんなにその言葉を伝えています。だって、他人と違うなんて当たり前だから。育ちも、食べてきたものも、見てきたものも違うから。でも、マンガをつくって他人に「面白い!」と思ってもらおうと思ったら、他人と笑いのツボが同じじゃなければネタにならないんですよ。広告なんてもっとそうですよね、売るために。

澤本:他にもいろいろなことを教えてくれる先輩だったと言っていましたね。

馬場:たくさん教わりましたね。中華料理のメニューの頼み方から女性の口説き方まで。「ニューヨークに行くとブルックスブラザーズとチップスとジェイプレスというのが4つの角に並んでいるマディソン街というのがあって、そこに行くとここのネクタイ売り場はこうだ」なんてことまで詳しく教えてくれる先輩でした。

権八:その人が一番変わってますよね笑。

馬場:よく考えたら、その人はめちゃくちゃ変わってましたね笑。ただ、その人はACCとかしっかり獲ってるんですよ。日立の宣伝部にいながら、生コマーシャルをつくられていた方で。やっぱり、“何がウケる、何がウケない”とか、“自分の言っていることは他人に通用している、していない”ということを一番に考えていた方でしたね。もう亡くなられてしまったんですけど、本当に影響を受けました。

澤本:はい、まだまだ聞きたいことはたくさんありますが、残念ながらお時間がきてしまいました。今日は本当にありがとうございました。ゲストはホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫さんでした!

<END>

構成・文 廣田喜昭

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