なぜ企業の新スローガンは上滑りするのか?――ブランディングにおける、企業の実態と理想のギャップ

<巻頭レポート>
顧客価値から考える企業・商品イノベーション――自社の資産を生かして、新顧客・市場を開拓する!

テクノロジーの進化によって、それまで生活や経済の中心にあった商品・サービスが、ふと気づけば時代の流れから取り残され、産業自体が衰退してしまう…。企業は常に、そんな危機にさらされています。特にデジタル化が急速に進む現在は、私たちの生活は日々劇的に変わっており、そこで必要とされる商品・サービスも大きく移り変わっていきます。

例えば、コンパクトデジタルカメラの市場がスマートフォンに侵食されてしまったように、競合他社の動きだけを見ていると、時代の変化の中で、その市場自体が衰退してしまうリスクもあるのが、消費者変化の激しい今の時代の課題です。

自社の資産を活かしながらも、時代に合わせた業態変革を実現するには、どうしたらいいのか。その方法論を考えていきます。


時代に合わせた事業変革は、その意図や狙い、社会や消費者に与えるメリットなどがステークホルダーに正しく伝わって初めて意味をなす。事業変革におけるブランディングの成功のカギとは?新しいスローガンを考える際の注意点とは?

スローガンの影響力を知る

企業がスローガンを掲げる際に意識しなければならないのは、スローガンを世の中に発信するという行為そのものがどれだけ影響力のあることなのかを理解することだ。

1行のスローガンが生活者の共感を呼び、何もかも好転し始めることさえある。共感を得たスローガンは従業員の意識を変革し、そこから生まれる行動は更なる価値を生み出していく。

スローガンの好事例として知られるコスモ石油の「ココロも満タンに」という言葉には、ガソリンスタンドに付加価値を与え共感を得ただけでなく、そこで働くスタッフのサービスに対する意識を変える力もある。さらにコスモ石油はこれをCSR活動のコンセプトとして掲げ、現場でのアクションにまでつなげているのだ。

一方、スローガンが上滑りしてしまい、生活者からの理解が得られなかったりすると、話は全く逆になる。伝わらないスローガンは、何をやろうとしているかわからない企業としてのイメージをつくり上げ、その状況を感じ取った従業員たちは自社の広報活動のあり方自体に不信感を抱き始める。

この差はどこで生まれるのだろうか。その一つの要因はスローガンの決め方にある。

企業が経営理念を策定する場合は、それがトップマターであることは疑う余地はないだろう。経営理念は長期的に掲げるものであり、それを軸にすべての事業活動が行われるのであるから、経営者はあらゆる角度から慎重に検証を重ね、言葉をつくり上げていく。

しかし、スローガンを策定する際にこれと同等の検証を重ねる企業がどれだけあるだろうか。短期的なマーケティング観点からのみでスローガンを決めてしまう例も多いのではないだろうか。

スローガンは経営理念よりもはるかに露出量が多くなり、企業の顔つきを決めてしまう力を持つにも関わらず、その発信に対して経営が慎重さを欠いてしまいがちな点に大きな落とし穴があるのだ。

次ページ「言語化に求められる専門スキル」

mikkion-under

「100万社のマーケティング Vol.2」発売
詳細はこちら ▶

次のページ
1 2
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ