一口で感じられる抹茶の贅沢を
抹茶を使ったお菓子のブランドや、和風甘味を扱うショップは数多くある。その中で、“お茶のプロ”である駿河園は、「最高峰の抹茶」を使用した菓子に特化することで差別化を図っている。
ここで、お茶の産地にひもづかない同社の特徴が生きてくると大淵氏は話す。「産地でないことは決して弱みではありません。全国の産地の茶をフラットに見渡して、本当に良いものを見極めることができますし、おいしいものであれば産地を問わず消費者に紹介することができますから」。
「茶の環」のスイーツに使われるのは、宇治抹茶「金天閣」をはじめとする最高級の抹茶のみ。色は美しい緑色で、風味豊かで香りの良い、抹茶だけでもおいしく飲めるような品質のものを、惜しげもなく使う。
「素材の違いは、見ても分からないかもしれませんが、食べれば必ず分かります。抹茶を使ったお菓子をつくる会社はもちろん他にもありますが、ここまで素材の品質を追求しているところは他にないと思います」と胸を張る。
「茶の環」のスイーツづくりは、素材となる抹茶の開発からスタート。日本一の茶鑑定名匠・森田治秀氏が、色、香り、旨味、甘味、その茶葉に足りないものなどを見極め、他の茶葉とブレンドすることで、茶の環オリジナルの抹茶はつくられている。
地元産のお茶が売れればいいという発想ではなく、お茶そのものを愛する駿河園の姿勢が、茶の環のお菓子づくりに生かされていると言える。
しかし、いくら優れた素材だからと言って、多く入れれば良いかというと、そうではない。当然のことながら、スイーツとしての価値はレシピによって大きく左右される。優れた素材を、他の素材とのバランスを見ながら、適正な量を配合することが重要だ。
「素材が良いだけでなく、スイーツとして本当においしいものをつくらなければ、抹茶の魅力はうまく伝わらない。そこで、お菓子づくりのプロの力を借りることにしたのです」と大淵氏。
神戸の洋菓子店「アンテノール」で初代シェフを務め、抹茶を使ったスイーツに定評のある山川良廣氏や、広島市の洋菓子店「パティスリー・イマージュ」のパティシエ・花口庄太郎氏が、スイーツを監修している。
「一口で、抹茶の奥深い世界を感じられるもの。それこそが本物の贅沢です。何度もリピートしてもらえるように。またお土産としてもらった人に、今度は自分で買いたいと思ってもらえるように。その贅沢な体験を提供するための手間は惜しみません」。
スイーツから抹茶そのものへ
スイーツ商品が愛されるのはもちろんのこと、「茶の環」が目指すのは、スイーツを通じて抹茶そのもののおいしさ、魅力を広く一般の人に知ってもらうことだ。
茶の環が使う抹茶の良さは、飲めば必ず分かる─その思いの下、店頭では試飲・試食など、抹茶そのものの魅力を伝える販売促進施策を大切にしている。
「シェイカーで、茶の環の抹茶と氷水をシェイクしてつくる『冷抹茶シェイク』をお配りすることもあります。飲むと、そのおいしさ、甘さに驚く方が多いんです。抹茶というと『苦い』『飲みにくい』というイメージを持っている方が多い
と思うのですが、本当においしい抹茶は、それよりも『旨み』を強く感じるものなのです」と大淵氏。
試飲した後、スイーツと合わせて抹茶を購入していく人も多いという。大淵氏の“抹茶の伝道師”としての取り組みは、すでに「茶の環」の先へと進んでいる。香港など、アジアを中心とした海外では、茶の環(海外では「cha-no-wa」と表記)の展開と合わせて、抹茶ソフトクリームなどをテイクアウトできる「Sweets House Cha Cha」をプロデュース。
また国内でも、北海道旭川市で、抹茶スイーツの販売&テイクアウトショップ「一〇八抹茶茶廊」をオープンした。
「特に海外では、本物の抹茶を楽しめる場所は少ないですから、その点ですでに差別化ができています。しかし、他にもお菓子が数多くある中で選ばれるためには、その地域に最も合う形を探り、その地に溶け込みながら、抹茶の魅力を伝えていくことが重要だと思います。世の中に出回る“本物”の抹茶を増やしていきたい。そうすれば、抹茶への評価も自然と上がって、業界の活性化につながるのではとも思っています」。
「茶の環」の世界観に捉われすぎず、展開する国や地域によって異なる志向やニーズに合わせて臨機応変に店舗形態や取扱商品、トーン&マナーを変える。多種多様なノウハウを着実に蓄積しながら、大淵氏は国内外に抹茶の魅力を発信し続ける。
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