<巻頭レポート>
顧客価値から考える企業・商品イノベーション――自社の資産を生かして、新顧客・市場を開拓する!
テクノロジーの進化によって、それまで生活や経済の中心にあった商品・サービスが、ふと気づけば時代の流れから取り残され、産業自体が衰退してしまう…。企業は常に、そんな危機にさらされています。特にデジタル化が急速に進む現在は、私たちの生活は日々劇的に変わっており、そこで必要とされる商品・サービスも大きく移り変わっていきます。
例えば、コンパクトデジタルカメラの市場がスマートフォンに侵食されてしまったように、競合他社の動きだけを見ていると、時代の変化の中で、その市場自体が衰退してしまうリスクもあるのが、消費者変化の激しい今の時代の課題です。
自社の資産を活かしながらも、時代に合わせた業態変革を実現するには、どうしたらいいのか。その方法論を考えていきます。
若年層への訴求が急務
睡眠時間が8時間であれば、人間は1日のうち、約3分の1を寝て過ごしていることになる。仮に75年の人生とすると、そのうち実に25年間は寝ている計算になるというから驚きだ。そうしたデータに加え、2014年3月には厚生労働省から「健康づくりのための睡眠指針」が発表され、「睡眠」への関心はますます高まっている。
消費者の志向・ニーズに呼応して、布団業界も「快眠サポート」「睡眠の質向上」といったコンセプトを掲げた商品開発に力を入れるなど、新しい動きを進めている。
しかし商品こそ新しいものの、布団業界のターゲットは一貫して50~60代。若年層に向けたアプローチは皆無といっても過言ではないという。
2013年、東京・青山の地に表参道布団店を立ち上げた代表取締役社長の古賀貴之氏は、布団業界が抱える課題について次のように話す。
「業界が長年に渡って築き上げてきた『高級羽毛布団』のイメージが、『布団は高くても仕方がない』という一般認識を形成し、かつては当然のように受け入れられていました。しかし、若年層にとっては価格に全く納得感がない。いくら使い心地が良くても、それは布団という、何十万円もする高額商品を買う理由にはなりません。そして業界もそんな若年層に対して、良質な布団を買うべき理由を説明できていません」。
既存の布団業界を見渡すと、過剰な機能や品質を追求した超高額商品と、低価格を追求しコモディティ化した商品、の二極化が進んでいる。ネット販売では1~2万円程度の安価な商品が売上の大部分を占めていて、メーカー各社は価格競争に陥り、質の低い商品も多く出回るようになっている。
「ネットで布団を買うのは主に20~40代。ただ、必要に迫られて購入しているケースがほとんどで、そこに『より良い品質のものを買おう』という意識はあまりないと思います。何が良くて何が悪いのか、布団についての知識がない中で、自分に合った布団を見極めようとする人はほとんどいないのではないでしょうか」。
このまま“値下げ合戦”を続けている限り、業界の成長は望めない。これまで、業界がターゲットにしてこなかった層に対してアプローチすることで、布団業界の新しい市場を確立したい。その思いが、表参道布団店をスタートするきっかけだった。
「30~40代の方は、あと20~30年経ったら、今の60代以上の方と同じように布団に何十万円もお金をかけるようになるのでしょうか?僕はそうはならないと思います。若い世代の、布団に対する価値観を変えなければ、布団業界の未来はない。そう思ったんです」と古賀氏。
目指したのは唯一無二の布団ブランド。布団に対する価値観を変えるためには、とにかく既存の業界が考えつかなかったようなことをやらなければならないと考えた古賀氏は、東京・表参道という、おおよそ布団店らしからぬ立地に店舗を構えることを決めた。
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