「企業は動画をどう使えばいい?」——HIKAKINに聞きに行く(下)

【前回のコラム「「企業は動画をどう使えばいい?」——HIKAKINに聞きに行く(上)」はこちら

左からHIKAKIN氏、須田伸氏

ステマをHIKAKINはどう考える

須田:著名ブロガーをはじめ個人が影響力を持ってしまうと、どうしてもステルスマーケティング、いわゆる「ステマ」が切っても切り離せない問題として出てきます。HIKAKINさんはステマについてどう思っていますか?

HIKAKIN:僕もよくステマだと批判されます(笑)

昔は少し気にしていたけど、ステマはやっていないので、今となっては勝手に言ってくれと思っています。僕が仕事の依頼をもらい始めた頃は、ちょうどブログでステマをやった芸能人が業界から干されるということが起きていました。なので、わざわざ言わないことでリスクを背負いたくないと思っています。

須田:必ずスポンサーがいることを明示する?

HIKAKIN:はい。もしかしたら視聴者は、スポンサーがいる動画だと面白さが減ると思ってしまうかもしれないけれど、隠して炎上する方が怖いです。なので、僕は企業からの依頼があったものは、「提供」や「キャンペーン」など、必ず伝えるようにしています。

正直、ステマの動画って、少し鋭ければ分かるじゃないですか。だから、今後もちゃんと提供ということを伝えていきます。

須田:スポンサーのいる動画では、HIKAKINさんの実感として感じたことを伝えている?企業側からこういう感想を言ってほしいという依頼もあると思いますが。

HIKAKIN:「絶対に言わないで」というNGワードは言いません。あと、「こういうところが売りなので」と言われたら、できる限りそこは触れるようにしています。ただ、「ひたすらほめるCMはできません」ともお伝えしています。素直に良いと思ったことを、なるべく自分の言葉に変換して伝えています。

須田:視聴者を喜ばせるコンテンツをつくりたいという気持ちと、スポンサーの意向は両立できる?

HIKAKIN:それは、できると思っています。なかなか難しいと思うけど、僕は全員をハッピーにする動画をつくりたいのです。

ひたすら商品の良いことを並べた動画じゃなくて、ひとひねりした内容だと、視聴者が楽しんで話題になって、その結果、商品も売れて、買ったユーザーからもいい商品を教えてくれてありがとう、って言ってもらえる。

それは僕らクリエイターの技量次第だと思います。

須田:「何も言いませんからHIKAKINさんの好きなようにしてください」という企業と、「ここは必ず動画の中で言ってほしい」というオーダーがある場合は、どっちがやり易いですか?

HIKAKIN:提供の場合は「ポイントはここだよ」って箇条書きであった方がやりやすいと思います。だけど、あんまりそれが多いとやりづらいかな。

企業の方に「このままだとテレフォンショッピングを見ている感じになっちゃいますよ」とお伝えすることもあります。一方で、「ダメなところも言ってください」という柔軟な企業もいます。そういうケースは、やっぱり動画の再生回数は伸びます。

須田:広告をつくるクリエイターはオリエンがまったくないと、広告をつくりづらいと一般的に言われています。ただ、広告主が伝えたいことがたくさんあって、CMの15秒間では伝えらえないよ、というのはよくある話。HIKAKINさんの気持ちはすごく分かります。

うまくいった事例はありますか?

HIKAKIN:最近、一番伸びたスポンサーの動画は、ロッテのアイス「爽」で僕が氷風呂に入るという企画です。自由にやらせてもらい再生数が伸びて、キャンペーンも盛り上がったと聞いています。

この動画についての視聴者からのコメントも広告であることを批判するものはほとんどなくて、純粋に楽しんでくれました。それを考えても、企業広告イコールつまらない動画ではなく、やり方次第で面白くできると思います。

須田:これはおすすめできないなあ、という商品の場合は?

HIKAKIN:商品を体験してみて、これは悪い部分を言わないわけにはいかないというものはお断りしています。

僕の動画を見て買う人は必ずいるので、ファンから「なんで悪いところ言ってくれなかったんだ」って、後から必ず指摘されてしまいます。

須田:YouTubeだと、たとえ提供であってもHIKAKINさんという実態のある人間がすすめているとユーザーは感じる。テレビCMでもタレントはギャラをもらって紹介しているから構図は基本的には同じなんだけど、ユーザーの受け取り方は違うように思えます。

HIKAKIN:そうなんですよ、まわりのクリエイターともよく話すんですけど、テレビCMで「おいしぃー」って言う分には何の違和感もないのに、僕らが同じことを言うと「こいつ言わされている」となります。本当に美味しいと思っていてもスポンサーのいる動画だと、ユーザーから「おまえ絶対思っていないだろ」「魂売ったな」とか言われることもあります(笑)

須田:たしかに、それはつらいところですね(笑)。スポンサーがいない場合の商品紹介も、自分が紹介することで売れたらいいなあと思います?

HIKAKIN:もちろん、思います。自分が面白いと思って紹介しているので。

これは売れるんじゃないかなあとか、なんとかなく分かります。最近は、紹介すると企業の方からすぐにお礼の連絡が来たりします。紹介したことで、後から「提供」でお願いしたいんですけど、という相談が来ることもあります。最近は男性用シャンプーや、カーテンがそうでした。

須田:HIKAKINさんの動画を見ていて気付いたんだけど、けっしてネガティブなことは言わないですよね。それは意識している?

HIKAKIN:意識しています。この商品をつくっている人も、僕の動画を見ているかもということがすごく気になるんです。

商品を食べて「まずっ」と言う動画ブロガーさんはかっこいいと思うけど、それだとクリエイターとして大きくなれないような気もします。撮影してみて、これはネガティブになっちゃうかもと思ったらボツにしています。なるべくポジティブで面白いものをつくるように意識しています。

須田:嘘はつかない、でも正直だからといってネガティブは発信しないというルール?

HIKAKIN:そうですね、ただダメなとこは絶対に言わないというわけではないです。最後に、ぼそっと「これは、ここをこうすると100点でしたね」というように意見を言うようにしています。

須田:それはいいですね。企業からは批判されているというよりは、提案に聞こえる。

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須田伸(フェイスブック執行役員 マーケティング本部長)
須田伸(フェイスブック執行役員 マーケティング本部長)

1967年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1992年より博報堂制作局にてCMプランナー/コピーライターとして8年間勤務。ACC賞、日経広告賞、消費者のためになった広告コンクール金賞など受賞多数。1998年カンヌ国際広告祭ヤングクリエイティブコンペティションに日本代表コピーライターとして出場。2000年より2年間Yahoo!Japanに勤務し、初代Y Chat MCとして「インターネット市民集会 with 鳩山由起夫」など数多くのライブチャットイベントを企画実行。
2002年より2012年まで10年間、サイバーエージェントに勤務し、同社のブランドをアメーバに一新する。「サイバーエージェント/アメーバ」は、2008年度グッドデザイン賞を受賞。
勤務のかたわら日経ビジネスオンラインにて「Web2.0(笑)の広告学」を連載。2012年4月よりFacebookJapanに勤務。
著書に『次世代広告進化論』『次世代広告テクノロジー』『時代はブログる!』など。

須田伸(フェイスブック執行役員 マーケティング本部長)

1967年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1992年より博報堂制作局にてCMプランナー/コピーライターとして8年間勤務。ACC賞、日経広告賞、消費者のためになった広告コンクール金賞など受賞多数。1998年カンヌ国際広告祭ヤングクリエイティブコンペティションに日本代表コピーライターとして出場。2000年より2年間Yahoo!Japanに勤務し、初代Y Chat MCとして「インターネット市民集会 with 鳩山由起夫」など数多くのライブチャットイベントを企画実行。
2002年より2012年まで10年間、サイバーエージェントに勤務し、同社のブランドをアメーバに一新する。「サイバーエージェント/アメーバ」は、2008年度グッドデザイン賞を受賞。
勤務のかたわら日経ビジネスオンラインにて「Web2.0(笑)の広告学」を連載。2012年4月よりFacebookJapanに勤務。
著書に『次世代広告進化論』『次世代広告テクノロジー』『時代はブログる!』など。

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