街の空気を変える「ふりかけ式」の都市計画
色部:最近は公共のデザインにも取り組んでいます。2020年のオリンピックに向け、今はパブリックデザインをもう一度考える時期だと思うんです。東京銀座で行った「銀座地区公共サイン実証実験」は、「外国人に分かりやすいサイン」がテーマのプロジェクトです。中央区から、「1丁目から8丁目までエリアを色分けしたいのだが、それをサインとしてどう具現化していけばいいか」と相談を受けました。銀座は“看板天国”で雑然としています。そこに大きなものを置くより、小さいけれど目立つ構造のものがふさわしいと考え、洋服のタグのように街灯にサインをつけることを思いつきました。銀座はファッションの街でもありますし。タグのような小さく柔らかいものでも、人の目線近くに配置すればちゃんと機能するのではないかと考えました。カラーリングには連続性を持たせることで、全体の統一感も持たせています。
八木:街に対してはデザインは介入しなさそうだと思い込んでいたんですが、そんなことはありませんね。
色部:もう一つ、街のデザインをご紹介します。「東京2020」という、オリンピックに向けたデザインの提案を行っていくイベントでプレゼンテーションしたものです。「ふりかけ式の都市調整計画」といいます。僕が着目したのは街区表示です。オリンピックというと、スタジアムやエンブレムのデザインに注目が集まりがちですが、街のイメージをボトムアップしていくようなアプローチもあるのではないかということで、小さな点の集積で街を変えていくことを考えました。フランスのように街区表示のデザインで街の顔つきを担ったり、ポルトガルのように伝統のタイルを使うなど、街区表示を使って場所のアイデンティティを表明していく考え方です。街の空気のつぶみたいなものをよくしていくことで、街の空気全体をよくできるんじゃないかと。
八木:街区表示みたいにほんの小さなプレートでも、街全体に降り積もるとすごい面積を持って意味をなすんですね。広告も、一つひとつの展開が降り積もると大きな効果を生むことがあるので、とても共感します。デザインとは、「本来の価値に戻すこと」だと思っているんです。作り変えていくというより、本来あるべき姿にしてあげるということ。色部さんのお仕事はまさにそうだと思います。あまり期待されていない領域こそ、デザインの力が活かされる。その例として、僕の仕事にメニコンのコンタクトレンズ「Magic-1day Menicon Flat Pack」があります。当初クライアントからのオリエンは、「新たに開発した薄さ1ミリのコンタクトレンズの広告を展開したい」というものでした。しかし、それよりも、眼球に触れる面に手を触れずに装着できるパッケージである、という方がユーザーのメリットになるのではないかと考えてパッケージや広告をデザインしました。コンタクトレンズのパッケージに、特に人は何かを期待していないと思うんです。でも、そこを違う価値でデザインしたら人の立ち居振る舞いも変えられるかもしれないし、売場も変わるかもしれない。
色部:パッケージは表層ですが、人の心持ちを変えますよね。そういう“心持ち”を変え、何かに違う輝きを与えていくアプローチにすごく共感します。
八木:デザインで価値が変容していくのってとても面白い。色部さんの仕事はまさにそうだと思うんですが、そもそも「グラフィックデザイン」にこだわるのはなぜですか?
色部:グラフィックデザインには歴史があります。グラフィックデザイナーは、皆が同じツールやフォントを使い、アイデアを出し合い、この領域で知見を蓄積しています。その状況が楽しい。過去にいろんな人がやってきた蓄積に対峙させて仕事をしていきたいですし、グラフィックデザインが社会で役立つことを示していきたいと常に思っています。
八木:デザインはどこか“専門家以外が触れられない領域”という意識があるように思うんですが、それはもったいないことだと思うんです。デザイナーしかデザインしてはいけないことはない。広告会社でも、デザインが皆の中に入っていくと、アウトプットはもっと強くなると思う。
色部:デザインがいつの間にかみんなのものになっている、という状況はいいですね。
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