表現したいワタシ
以前、某劇場の支配人がこんな風に嘆いていた。
「最近は表現したい人がたくさんいて、それを見たい人が全然いない時代」
要するに——演者のなり手は多いんだけど、観客の減少に歯止めがかからない、と。
思うに、これも近年のSNSの普及がもたらした現象じゃないだろうか。今やSNSを介せば、誰でも表現者になれる時代。そして一度、その楽しみに目覚めた彼らは、以前のように一観客でいることに満足しない。
例えば、ハロウィンのイベントだってそうだ。
昔はハロウィンと言えば、インターナショナルスクールあたりの子どもたちがお化けの仮装をして近所を訪問して回り、お菓子をもらう日——くらいの印象しかなかったけど(あくまで外国のお祭りで、日本人には馴染みが薄かった)、それが今や、大の大人たちがコスプレして、渋谷のスクランブル交差点をはじめ、繁華街で大騒ぎをするイベントに変貌した。
その転機は、東京ディズニーランドで大人のゲストの仮装が認められた2002年からとも言われるけど、今みたいな盛り上がりを見せるのはせいぜい、ここ4、5年だ。
そう、これもSNSと普及とリンクしている。
何せ昨年、ハロウィンの経済効果が1100億円と推計され、あのバレンタイン商戦の1080億円を上回ったのだ。“愛の告白”(最近は友チョコなんてのも増えているけど)よりも、“仮装して大騒ぎ”するほうに、人々は惹かれるのだ。渋谷のスクランブル交差点が毎年のように大盛り上がりを見せるのは、SNSで拡散されるからである。ちょっと面白い仮装をすると、たちまち全国に拡散される。一夜にして有名人になることだって夢じゃない。
「最近は表現したい人がたくさんいて、それを見たい人が全然いない時代」
あの劇場支配人の悩みは、要はそういうことである。
だが、やりかたによっては、そんなSNS時代の風潮を逆手にとって、広告として大成功したケースもある。一昨年に行われたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のプロモーションがそう。
かの曲、2013年6月に行われたAKB48グループの選抜総選挙で、HKT48の指原莉乃が1位となり、彼女をセンターに同年8月21日に発売されたシングル。発売週に早々にミリオンを達成し、彼女たちの19枚目の1位となった。ここまでの流れはいつもの通り。同グループのシングルはいわゆる“握手会”商法。CDには初回特典で握手券が同封され、ファンは自分の推しメンと何回も握手したいがために、同じCDを何枚も買う。だから発売週に爆発的に売れるが、収束も早い。一ヶ月もすればメディアの露出も激減する。
ところが、である。
「恋する~」は違った。発売から3ヶ月、いや半年が経過してもコンスタントに売れ続けたのだ。その勝因は–YouTubeのコラボレーション動画の存在である。
そう、まだ記憶に新しいけど、佐賀県庁やサマンサタバサ、日本交通やサイバーエージェントの人たちが、同曲に合わせて踊り、その様子をYouTubeにアップした動画が100万単位で拡散され、社会現象になったアレ。
興味深いのは、AKBの運営サイドは企業や自治体に参加を呼び掛けただけで、撮影などの費用は全て参加者持ちだったこと。つまり、プロモーションにかかった費用は実質0円。それで大々的に広告できたのだから、大成功である。
要するに、今は「一億総表現したいワタシ」時代。そのココロにうまくアクセスすると、彼らは喜んでノってきてくれるのだ。
いかがです?
「パンケーキが好きなワタシが好き」「一億総表現したいワタシ」–SNSの登場以降、その種の“背中の一押し”も、今はありなんですね。
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せーの、ドンっ!
イラスト 高田真弓