海外に比べて“タレントCM”が多い日本
権八:もちろん色々なCMがあるので一概には言えなませんが、あとは海外の大きなブランドでもハリウッド俳優などのタレントが出ているものもありますが、日本のCMのほうがタレントの出てくる率が高いというか、圧倒的にタレントCMが多いですよね。その辺は広告業界の中でも、賛否両論いろいろありますね。
大久保:賛否両論あるんですね。
権八:ここは結構、議論になるところです。たとえば、うちの会社(シンガタ)の佐々木宏は日本を代表するクリエイティブディレクターですが、圧倒的にタレントを使います。ソフトバンクやトヨタのCMなどですね。ぼくはタレントを出すCMの良いところは「親近感がわく」ところだと思います。短い秒数の中で企業の好感度を上げるときに「効率は良い」のかなと。
ソフトバンク 最新CM
権八:たとえば、おばちゃんとかが朝ドラの主人公の女の子に街で会うと普通に話しかけちゃうみたいなところありますよね。テレビに出ているタレントさんには親近感を抱くので、その人から「この商品、いいですよ!」と言われると親しみをもつというところが良さだと思います。ただ、一方で“CM女王”と言われるように人気が集中するんですよね。
大久保:一度に何本ものCMにご出演されている女優さんいらっしゃいますよね。
権八:上戸彩ちゃんや武井咲ちゃん、剛力彩芽ちゃんが何社も出ている、とかありますよね。「次は誰がCM女王に?」みたいな。最近は広瀬すずちゃんも人気ですよね。男性だと西島秀俊さん。パナソニックから日清、サントリー、宝くじまで、色々出られている。そうなると、どのブランドも同じ人が出ているので差別化しづらくなる。見る側は混乱してしまったり。その辺がどうなのかなというところはありますよね。
大久保:適材適所でブッキングされていたり、あるいはその人の新たな魅力がCMで出ていたりすると、それはすごく印象に残りますよね。
権八:ぼくもそこはすごく注意します。タレントさんのパブリックイメージをちょっと裏切って、別の側面を見せてあげられたりすると「良い仕事になったなぁ」と思うときがあります。
大久保:違う魅力を引き出せて、それがCMを見ている人にも伝わるというのは仕事冥利に尽きますね。かっこいいところだと思います。
権八:CMだからこそやれるということもありますね。タレントさんもドラマや映画という大きな作品になると一歩踏み出すのが難しい場合でも、15秒や30秒の世界であれば「挑戦してみようかな」という気になるかもしれない。かつての小泉今日子さんはCMごとにコロコロ表情が変わりましたよね。
大久保:それは素晴らしいですね。
権八:CM女王だった時代がありましたけれど、小泉さんの何かのインタビューで「毎回つくり手に託しちゃう」みたいなことをおっしゃっていました。「私の自我は捨てて全部預ける」と。CMだからこそのそういう面白みみたいなところはあるのかなという気がします。
大久保:毎回、真っ白で! それは素晴らしい。タレントさんを使うからいいとか、悪いじゃなくて、使い方であるとか、そこにどれだけアイデアが乗っているかとか、そういうことも大事ですよね。
権八:そうですね。これはちょっと手前味噌になりますが、宮崎あおいさんにearth music & ecologyの広告に出ていただいたときも、人気者で、清楚で優しくて、かわいらしくて、という現状から何か“新しい魅力”を掘り出せないかなと考えて、ブルーハーツの歌をうたってもらいました。彼女が歌う姿を、世の中の人はまだ見たことがなかったし、素朴な味だったり、一生懸命うたっているところが逆に新しい魅力になる、ということは考えましたね。