仮想質問はマーケターが真剣に検討すべき思考実験
難しい意思決定をしなければならない際には、まず冷静に選択可能なオプションを吟味すべきですが、人間はなかなかそう合理的ではありません。さまざまな思惑や立場が絡み合って議論そのものが成り立たないということもよくあります。その際に、役立つのが仮想質問による思考実験です。マーケティングの責任者であれば、「もし自分が退陣し、新しいCMOが来たらどのような判断をしますか?」と考えてみてもいいかもしれません。
おすすめなのは、チップ・ハースとダン・ハースの著書『決定力!』で紹介されている、コンサルタントのロジャー・マーティンが実践している質問です。
「もしその選択肢が正しいとするなら、それが成立する条件とは何か?」
ある選択肢を正しいと主張するのではなく、その選択肢が成立、正当化できる外部環境から内部条件を検討するという作業です。
例えば、さきほどの予算をデジタルメディアにシフトするかどうかというケースで考えてみましょう。各メディアによって影響力を及ぼす消費者ターゲットの大きさや、メディアとの関わり方を比較すること無しには決断はできません。商品やサービスの購入までのメディアが果たす役割をカスタマージャーニーとして把握し、その費用や機会創出を想定する必要があります。仮に現時点での自社の顧客がプリント媒体のオーディエンスと一致していたとしても、デジタルメディアでの新規顧客が急速に成長しているのであれば、今から数年後を想定して予算を振り替えていくべきです。
思考実験とは、ただの知的ゲームではなく、このような実践的な分野に活用されてこそ意味のある知的労働です。また、戦略に基づいた仮想質問は、自動化が難しく、人間が担うべき仕事です。
マーケターは、常にこうした思考を頭に描けるようなフレームを持っていることと、その意思決定が可能な条件について社内外の環境に常に敏感であることが求められるはずです。
最後に、
「太陽を盗んだ男」では、赤と黒どちらのコードを切っても爆弾が解除されるというオチでした。間違った選択肢に躍らせられるというのもまた、意思決定には付き物なのです。