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ベルリンの壁が崩壊したのは、今をさかのぼること26年前、1989年の晩秋である。
その頃、日本では40歳の若さで松田優作が他界し、テレビでは「24時間タタカエマスカ?」と時任三郎が高らかに歌い、芝浦の大箱ディスコ「GOLD」では夜な夜な若者たちが陶酔した――そんな時代である。
ちなみに、よくニュース映像に出てくるベルリンの壁の上に市民が立って、男性がツルハシを振り下ろすシーンだけど、実際には壁は硬くてツルハシ程度じゃ壊れず、後日、重機で壊したそう。男性も壊れないと知っててパフォーマンスをしたワケで。
教訓、いつの時代もアイキャッチは大事。
それはさておき、ベルリンの壁崩壊がキッカケになり、東西冷戦は終わり、ソ連も崩壊した。だけど、何も壊れたのはベルリンの壁だけじゃない。
気が付けば、男女の壁、大人と子供の壁、オタクと非オタクの壁……日々、僕らの周りでは様々な壁が壊され、新しい世界が生まれている。
そもそも地球を宇宙から眺めれば、国境なんて線もない。1961年にユーリ・ガガーリンがボストーク1号で人類史上初めて宇宙から地球を眺めた時、それは青く美しい球体でしかなかった。
そう、時代はボーダレス。
そんな時代には、僕らは様々な常識を疑ってかかったほうがいい。
1つのエピソードがある。
1980年代前半、若者たちの間でバイクブームが盛り上がった頃の話である。当時のバイクはスピード志向。峠を攻める“街道レーサー”が全国各地に出没した。人気モデルはレーサーレプリカタイプ。中でも一番人気が、ホンダのVT250だった。
ところが同バイク、その取り回しの良さと精かんなスタイルがうけ、意外にも女性ライダーからの支持が高かった。メーカーの当初の思惑とは違ったが、たちまちベストセラーバイクとなり、ホンダにとっては嬉しい誤算だった。
そこでホンダは、次のモデルチェンジで大幅に女性向けに舵を切る。スタイリングをマイルドに、カラーリングもパステル調にした。これで女性人気が更に上がると読んだのだ。しかし――。
意外にも、新モデルは、一気に人気が下降する。
女性向けにマイルドにした策なのに、逆に当の女性たちが振り向かないのは、なぜ?
その答えは、それから30年近く経過して発売された、ある一冊のレストランガイドによって解き明かされる。