【前回コラム】「広告なんて、誰も見たくない。だから、工夫する。」はこちら
伝えたいことを伝えるためには、まず人の気をひくこと。
「完成度よりも、伝達度を上げることがだいじなんや」
堀井さんがずっと言い続けてきはったことのひとつです。
じょうずな広告をつくることが、僕たちの仕事の目的ではありません。
「伝えたいことが伝わる広告をつくること」
それが僕たちの仕事の目的なんだと思っています。伝達度を上げるためにやるべきことは、目立つこと。そして伝えること。この2つだけです。
広告にとって、「目立つこと」はとてもだいじなことだと思います。人をこちらに振り向かせ、その広告を見てもらわないと話は始まりません。世の中にはたくさんの広告や情報が溢れているのですから、普通の、じょうずな広告をつくってしまうと、その他のじょうずな広告の中に埋没してしまう可能性が高くなる。
結果、誰も振り向いてくれないし、メッセージも伝わらない、ということになってしまうわけです。
好きな人がよそ見しているときに、愛の告白をするような人はいませんよね。落語でもマクラの果たす役割は重要で、まず観客の気もちをひきつけておいてから本題に入ります。
伝えたいことを伝えるためには、まず人の気をひくこと。それは、伝達度を上げるための必要不可欠な条件だと思います。
そういうことについて、石井達矢さんがよく言っていたことは、
「企画するときは、人をこちらに振り向かせることに90%のエネルギーを使うべき。残りの10%でメッセージを考える、そのくらいの気もちで考えたほうがいいんや」。
もちろんメッセージはだいじですから、実際の仕事ではこれだと思える言葉ができるまで、徹底的に考えるんですけれど、ね。
石井さんがクリエーティブ・ディレクターになったとき、僕はその下でディレクター(当時の職種)として、いっしょにいろんな仕事をしました。
石井さんという人は次々と言葉や企画が出てくる人で、仕事がものすごく速くて。たとえば、打ち合わせ中にちょっとトイレに行ってくるわーと席をはずし、戻ってきたとたんに、「こんなんどうやろ?」と出てくる言葉や企画がもうすばらしいんです。ちなみに、堀井さんが酔うと、「石井は天才やー」と少なくとも5回くらいは言わはります(笑)
そんな上司の下で働くと、僕のような凡人は、人を振り向かせるのに90%のエネルギーを使い、同時に、言葉を考えるのにも90%のエネルギーを使わないといけないわけであります。合計すると180%になって計算が合いませんが、その気もちはわかっていただけますよね?