【連載企画】生活者に「選ばれる」企業をつくる デジタルマーケティング対談
第3回 キヤノンマーケティングジャパン 平林氏 × IMJ 加藤氏
マーケティングの原点は顧客を理解することから
加藤 様々なマーケティングチャネルがある中で、デジタルをどう位置づけていますか。
平林 顧客接点にはデジタルもあればアナログもあり、どれが有効かはお客様が決めることです。デジタルマーケティングだからといって、アナログを考慮しないようなスタンスでは顧客のインサイトを見失ってしまいます。両者は連携させてこそ効果を発揮するもので、そのためには顧客視点のカスタマージャーニーを描くことが重要です。
加藤 カスタマージャーニーを考える上で大切なことは何でしょうか。
平林 私たちは顧客の理解についてもっと貪欲になる必要があります。
お客様が製品を購入された本当の理由をとことん突き詰めていく。それでこそ適切なお客様に、最適なタイミングで、適正なサービスやバリューを提供することができ、期待する成果を導き出すことが可能になるはずです。
そのために鍵となるのはデータの活用です。具体的には、キヤノン製品のユーザーと非ユーザーの双方のデータがあるのが望ましい。他社ユーザーのデータは得られないので、サードパーティー(第三者)データなどをうまく組み合わせていくことが必要です。
加藤 キヤノングループはBtoBとBtoC双方でビジネスしています。それぞれプロセスや必要なテクノロジーが異なると思いますが、いかがですか。
平 林BtoCでは広告の費用対効果を視覚化して最適な投資配分を重視します。また、店頭でいかに指名買いしてもらうかがポイントです。キヤノンを選んで良かったと感じていただくために、SNSなども使って普段からお客様とのコミュニケーションを取っておくことも重要でしょう。
BtoBの場合は、これまでのような一本釣りの営業スタイルではなく、高い購買意欲を持った見込み客を多くの顧客接点から見つけ出し、購買意欲の高いお客様を営業に引き渡すことを意識しています。
加藤 デジタルマーケティングの予算を確保する上で課題はありますか。
平林 当社の中で、我々は事業部門の予算を預かって動かす立場なので「、デジタルだから(試しに)やってみよう」だけでは通じません。
「デジタル施策により、今までわからなかったニーズを可視化し、効率化を図ります」というように、収益につなげるためのアイデアとして提案しています。
事業部門の担当者もデジタル化の波は肌感覚で分かっていますから、低予算でのトライアルから始め、効果を見ながら続けるようにしています。
最初から大がかりなソリューションは導入できませんが、手間と時間はかかるもののコストはさほどかかりません。効果が出てくれば、その後の話も進みやすいし再投資も可能です。
加藤 理想の姿や大きなビジョンを見せることは大切ですが、社内の理解や協力を得るには、早期に「小さな成功」を積み、共有することで予算もつきやすくなることが多いと思います。
平林 米国企業などはマーケティングのKPIを明確にし、PDCAを回す考え方が根付いていますが、日本企業の場合は、そこが曖昧です。それを作るところから始めるのは大変なので、「このツールを導入することで、KPIを明確にし、PDCAを回していきましょう」と、逆説的な言い方をすることもありなのかなとこの頃感じています。
米国のマーケターは売上・利益が出るかどうかが関心事で、そのために最適な手法を選ぶというシンプルな考え方です。見習うべき点は多いと思います。