第一期の本広監督作品『Regret』を見てください。
この『Regret』がまた、ハイブローな作品で少々難解な分、何度も見てしまいます。それはともかく第一期では、物語の最初に商品が出てきて、突然…という構成です。『踊る大宣伝会議』とかなりちがいますね。
吉田氏によれば、商品と物語の関わりが「進化」したのだそうです。スポンサー側もクリエイター側もお互いに学んだ。
クリエイターにできるだけ自由に物語を考えてもらってのびのび作ってもらったほうが、完成したものにパワーが出る。そして多くの人に見てもらえて強く心を動かすことができる。スポンサー側は第一期の制作を通じて、そんな“学び”を得たのだそうです。
一方、クリエイター側はもっと商品そのものを物語に編み込んで密接な関係をつくるべきだと感じた。だから、当初は『踊る大宣伝会議』の中で課題となるCMは架空の商品だったのを、ネスカフェそのものにした。そして物語の中で登場人物たちがギスギスしたりすると、主人公がコーヒーを差し出すことにした。コーヒーが物語の重要なアイテムとなっています。そしてそこにはネスレがコーヒーにこめた理念や哲学といったものが反映されている。仕事で疲れた心を癒すのがコーヒーであり、それを差し出す“アンバサダー”なのです。
クリエイター側が商品を、そして企業を深く理解し、理念レベルまで共感したからこそ一緒になって物語を作ることができた。スポンサー側の意思が、意図した以上に反映された動画として結実したのだと言えます。
こうした作用は、スポンサーとクリエイターが直接ディスカッションし触れ合ったからだと吉田氏は言います。これを“テレビ局として”やろうとすると、間にいろんなセクションが入って伝言ゲームになってしまい、ここまで理解しあえない、理解が深まらないだろうと。マス広告の場合、あるいはテレビ番組の場合、スポンサーとクリエイターの間に様々の事業者や部署が入るのはしかたないことですが、ネット動画では直接のやりとりができる。そこは面白く魅力的な要素です。
さてこうした動画制作、どれくらいの予算がかけられているのだろう、と気になる人も多いでしょう。これについて吉田氏は「ゴールデンタイムのバラエティ番組の制作費並み、と考えてください」と言っていました。ということは、少なくとも千万円単位、数千万円以内というところでしょう。ネット動画としては明らかに予算をかけています。
プロモーションにもかなりエネルギーをかけています。テレビCMやトレインチャンネル、シネアドでの告知を行い、また出演者のブログやSNSでも発信されました。それから、日本映画発祥の地である神戸で映画祭を開催し、そこでの上映も行ったそうです。映画と並びうるレベルの映像を作ったからこそ可能になったのだと言えます。ネット上だけでなく、こうしたイベントでの展開は大きな効果をもたらしたはずです。