【前回コラム】「買う5秒前、背中を押された“裏ターゲット”」はこちら
三谷幸喜監督の映画『清須会議』にこんなシーンがある。
役所広司演ずる柴田勝家が、信長の妹のお市と結婚することになり、小日向文世演ずる丹羽長秀から助言を受ける。
「年下の女房は年上のように、年上の女房は年下のように扱うといい。それが夫婦円満の秘訣だ」
至言である。
得てして人は、周囲が自分に抱くイメージと逆のことをやりたがるもの。優等生が不良に憧れたり、屈強な男が意外にも女装癖があったり……。
人心掌握に長けた人は、その辺りの按配がうまい。丹羽長秀が言いたかったのも、要はそういうことである。
そう、“逆張り”だ。
人は保守的な反面、たまに予定調和を崩したがるので、案外この方策がうまくいく。
例えば、AKB48。
かのグループといえば、いわゆる「会いに行けるアイドル」がコンセプト。CDに握手券を同封し、ファンは推しメンと何回も握手したいがために、同じCDを何枚も買う。いわゆる「握手会商法」だ。批判はあるが、要はCDが売れない時代にファンをパトロン化してCDを通じてグループに投資してもらう、一種のビジネスモデルである。
そうなると、人気メンバーは自ずと握手対応のいいメンバーになる。まるで恋人のようにファンと接することから「釣り師」と呼ばれる渡辺美優紀はその代表例だし、柏木由紀や松井玲奈、宮脇咲良など人気メンバーは大体、“神対応”と言っていい。
ところが、である。
一人例外がいる。「ぱるる」こと島崎遥香だ。
彼女のトレードマークといえば、いわゆる“塩対応”。握手会でファンたちが熱心に話しかけても、素っ気ない。笑顔も中途半端。だが——ファンにはそこが堪らないのだ。
実際、彼女のファンにはM体質の人が多いと聞く。彼らはその塩対応で打ちのめされたいがために、今日も握手券を握りしめ、彼女の列に並ぶ。
そう、これも逆張り。
周囲がみんな神対応だから、中途半端な対応だと埋没しかねない。そんな時、誰もやっていない塩対応を打ち出すと、俄然目立つ。「ま、中にはそういう子がいても面白いよね」と。
結果、ぱるるは塩対応で人気となり、今や同グループの中心メンバーの一人。最新の40枚目のメモリアルシングル「僕たちは戦わない」では、栄えある単独センターだ。
実際、彼女の塩対応が演出なのか素の対応なのか、本当のところは分からない。もしかしたらプロデューサーの秋元康さんのアドバイスもあったかもしれない。ただ、結果として、その“逆張り”はファンの背中を押したのだ。
考えてみれば、人が人を好きになるのは、その人の長所というより、むしろ欠点を愛おしく思うからである。1980年代前半、かの松田聖子はO脚に奥二重と、アイドルとしては不利な条件を備えながら、時代のトップアイドルになった。
そう、人は100%完璧な存在より、ちょっと欠けているほうに惹かれるもの。ぱるるの“逆張り”は、まさにそんなファン心理を巧みについたのだ。